2. 金融危機における口紅効果
自分へのご褒美は、圧倒され、不確実性を感じる世界でコントロールの感覚を取り戻す方法となり得る。これをよく表しているのが「リップスティック(口紅)効果」だ。不況や金銭的な苦境など経済的に不安な時期に人々は高額のもの(休暇や車、高級電化製品など)への支出を減らす一方で、小さくて手ごろな贅沢品への支出を増やす傾向がある。
この効果の典型例が化粧品だ。歴史的に、不況時には口紅の売上が増加する。というのは、口紅は贅沢感や自信、感情的な報いを感じるための安上がりな方法だからだ。
専門誌『Journal of Behavioral and Experimental Economics(ジャーナル・オブ・ビヘイビオラル・アンド・エクスペリメンタル・エコノミクス)』に2020年に掲載された研究ではこの効果を検証している。研究チームは、大不況(2007〜2009年)に焦点を当て、口紅効果をよりよく理解するために米労働統計局による消費者支出調査の実際の支出データを調べた。
口紅効果は、新しい服や高価なものの「代用品」
大不況の間、18〜40歳の女性は化粧品に多く支出していた。
従来の理論では、不況時に女性が化粧品を多く購入するのは、不確実な時代にパートナーをひきつけるため、あるいは外見を魅力的にすることで職を得る可能性を高めるためだと考えられていたが、データはこうした考えと大きく矛盾していた。
化粧品の消費の増加は、既婚かどうか、仕事に就いているかどうかに関係なくみられた。これは恋愛や求職が動機となっているという見方でこの傾向を完全には説明できないことを意味している。
そうではなく、口紅効果は「代わりのもの」であることを示唆している。不況の間、女性は新しい服など大きなもの、あるいは高価なものの購入を控える。だがそうしたものを購入した場合にかかる支出の一部を小さな贅沢品に振り向ける。口紅やその他の化粧品は安くても贅沢感や満足感が得られる。
これは、小さなご褒美のコンセプトとよく似ている。要するに、小さなご褒美とは現代における口紅効果の日常的なものだ。小さなご褒美は現代生活のプレッシャーに対処するためのコストの割にかなり心が落ち着くささやかな楽しみに過ぎない。


