交差点の実例
「ハーバード・ビジネス・スクール・オンライン」でケイト・ギブソンが書いているように、「AIを活用した戦略は、単に既存業務を改善するだけでなく、根本的に変革する。AIを活用すれば、予測分析で顧客のニーズを先読みし、プロセスの自動化でコストを削減し、サービスをパーソナライズして顧客満足度を高めることができる」。
顧客のニーズを予測し、コストを削減し、顧客満足度を向上させることは、デジタルであれオフラインであれ、ほぼすべてのビジネス戦略の根底にある目標だ。しかしAIは、企業がこれらの目標を達成する方法を根本的に変えることができる。
実例を挙げてみよう。
マイクロソフトと「GitHub Copilot」
OpenAIの言語モデルに基づき、プログラミングにまつわる各種作業を支援するクラウド型AIツール「GitHub Copilot」は、単なる開発アシスタント以上の存在であり、AIがどのように企業のデジタルDNAの一部となるかの好例だ。
マイクロソフトはAIを、単なるサイドプロジェクトとして立ち上げたわけではない。同社は、ユーザーや開発者が日常的に使うプラットフォームにAIを直接統合する取り組みを進めてきた。これにより、単に生産性が高まるだけでなく、開発者がより迅速に探索やプロトタイピングを行えるため、イノベーションが促進される。
Stitch Fix(スティッチ・フィックス)
オンライン・パーソナルスタイリングを提供するスティッチ・フィックスは、AIを活用して、顧客のスタイルやフィット感の好みに合った衣類を提案している。デジタル戦略では、データサイエンスと人間のスタイリストの融合に重点を置いている。AI搭載のパーソナライゼーションエンジンで、シームレスな顧客エンゲージメントを実現し、その結果として、消費者のトレンドにほぼリアルタイムで対応できる機敏なビジネスモデルを実現させている。
Moderna(モデルナ)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックのずっと前から、モデルナは、クラウドベースの研究プラットフォームを基盤としたデジタルファースト戦略を構築していた。パンデミックが発生すると、AIが、ワクチンの設計と試験サイクルを加速させた。研究開発(R&D)の全段階にAIを統合したことで、イノベーションのタイムラインは、数年単位から数カ月単位に短縮された。
リーダーシップの重要性
デジタル戦略とAIを統合させるには、まずはトップの賛同を得る必要がある。多くの組織にとっては、これが最大の課題だ。
McKinsey(マッキンゼー)の調査によれば、従業員が生成AIを利用している割合は、リーダーの予想の3倍に達している。その結果として、しばしば多くの企業は、AIツールの正式なトレーニングや、既存ワークフローへのAI統合に十分な投資を行っていない。
米国ロチェスター大学およびスイスのベルン大学が共同で運営するエグゼクティブ・プログラム(経営幹部向けの教育プログラム)で、AI部門の学術責任者を務めるマーク・K・ピーター教授は、その著書の中でこう述べている。「デジタル化に伴い、私たちの働き方や必要なスキルは変化している。現代化された職場環境は、従業員のモチベーションを高め、ポジティブな企業価値を強化し、デジタルスキルの向上につながる。必要なのは、機敏性、新しい管理手法と職場環境、コミュニケーション技術、コラボレーションプラットフォームだ。社内のデジタルトランスフォーメーション(DX)は、組織の成功につながる。経営者は、革新的な思考、機敏なリーダーシップ、そして従業員をDXに向けて鼓舞する能力によって自らを差別化し、変革を歓迎・支援する企業文化を構築することを求められている」。
リーダーが、AIソリューションをどう導入し、AIがもたらす変化にどう対応するかは、組織全体の基調を決定づける。先を見越して積極的な姿勢を取るリーダーは、より効率的で革新的な従業員の働き方を後押しする。


