現代の職場は変化のペースが速く、仕事と私生活の境界線が曖昧になりがちだ。そのため心の知能指数(EQ)はいまや、実効性のあるリーダーシップにとって欠かせない要素となっている。
企業が変化し、課題が増すなかでは、自分の感情を適切に制御できるリーダーがひときわ光を放つ。困難を乗り越えるレジリエンスに優れているだけでなく、激動の時代でも、チームをうまく導いていく力をもっているからだ。
現代における感情制御の重要性と必要性
人間の経験は多種多様だが、その中でも感情制御は、心の知能指数に特に欠かせない要素だ。感情制御の理解とは、自分の感情的な反応を認識し、解釈し、コントロールするワザと科学を探求することを意味する。単に感情を理解するだけでなく、感情に対する反応をどう形成するかがポイントだ。
感情制御の核心は、ふとしたいら立ちのような一過性の感情であれ、心に染みついた恐怖心といった根深い感情であれ、それを識別する個人の能力にある。そのプロセスには内省と自覚が必要であり、多くの場合は、感情的な状態に自分の反応が支配されないよう、意識して努力することも不可欠だ。
ただし、感情制御とは感情の抑圧がイコールではないことを理解するのは重要だ。感情制御とは、感情を適切に認識し、最も適切な行動を決断することなのだ。たとえるなら、クルマの運転席に座っているようなものだ。道路がでこぼこしているからといって、ハンドルをむやみに切る必要はない。我々は慌てず、適切に判断しながら運転し、目的地に無事に到着することを選択できる。
ストレス、怒り、恐怖、喜び、興奮──こうした感情はみな、周囲からの刺激に対する人間の自然な反応だ。しかし、感情を適切に制御しなければ、湧いてきた感情に引きずられて誤った方向へと進み、衝動的に判断したり、対立したり、さまざまなマイナスの結果を引き起こしたりする可能性がある。
一方、感情を制御する術を習得すれば、人はそうした感情を建設的な方向へと向ける力を身につけられる。例えば、議論が白熱したときには、怒りに飲み込まれず、そのエネルギーを生かして、相手を侮辱することなく自分の言いたいことを熱心に主張できるだろう。あるいは、ストレスを抱えたときに、パニックを起こす代わりに、それを問題解決のきっかけにすることも可能だ。
感情制御の達人になるには
リーダーシップの領域では、感情はしばしば船を予定外の方向へと導いてしまう、海図が描かれていない未知の海域となり得る。しかし、危険を伴う航海と同様に、人を目的地に安全に導くためのツールやコンパスは存在する。中でも重要なのが、感情制御に役立つ手段だ。それがあればリーダーは、困難に直面しても自分を見失わず、冷静さと感情的な機敏さを保つことができる。
1.ビーコン(信号ブイや灯台)としての自己認識:リーダーとしての旅路は常に、自己理解から始まる。自分の感情のトリガーを認識するということは、一過性の気分を表面的にざっと確認するだけでなく、反応を左右する心の奥底の流れをしっかり探るということだ。
リーダーが、自らの内面に強い感情を引き起こす要因を認識すれば、自らを改善すると同時に、進むべき方向を定めることもできる。この認識は極めて重要だ──というのも、感情のトリガーを自覚すれば、それを抑制する戦略を立てることができる。あるいは、それをうまく利用して、効果的かつ感情に訴える行動を決められるからだ。



