基盤モデルと現場をつなぐ独自アプリ、予約効率化や省エネに展開
Brainは、各業界向けに独自のアプリケーションを開発し、顧客がAIと円滑に連携できる共通プラットフォームを提供することで、この課題の解決を図っている。ギルは、同社の真価が発揮される領域が「最新のChatGPTを動かすGPT-5のような基盤モデルと、現実のビジネス課題との間にあるギャップを埋めることにある」と語った。
Brainのアプリケーションは、OpenAIのような基盤モデルに加え、社内で独自に開発・訓練された専用モデルやエージェントも活用している。これらのツールは、ホテル業界では予約システムの効率化を支援し、製造業の工場ではエネルギー消費の最適化を可能にしている。
Brainは、特定の業界に絞って事業を展開する計画を持たない。かつてグーグル・ブレインやDatabricksでAI製品チームを率いた経歴を持つCEOのメワルトは、「これまでのところ1つの分野に集中すべき理由は見当たらない。技術やAIの能力のレベルで見れば、多くのユースケースは驚くほど似ている。ある顧客と進めた仕事が、別の業界の顧客に対しても成果として活きてくるのだ」と語った。
その例として彼が挙げたのが、建築許可の審査と保険金請求の処理だ。いずれも申請を受け付け、建築基準や保険契約のガイドラインと照らし合わせ、承認の可否を判断するという共通の流れを持つ。Brainはその両方に取り組んできた。
構想誕生から人材補強まで、Serene AI買収と政界人脈
Brainの最初の3人の共同創業者であるクシュナーとギル、そしてOpendoor共同創業者のエリック・ウーは、2023年、ジョシュ・クシュナーからの紹介を受けてシリコンバレーで出会った。その当時ジャレッド・クシュナーは、シリコンバレーを巡りAIについての議論を重ねており、彼のPE企業アフィニティ・パートナーズは、ドバイのクラシファイド広告プラットフォームからドイツのフィットネステック新興企業まで幅広い案件に取り組んでいた。一方、グーグルの初期社員だったギルは、FigmaやPerplexityといった「デカコーン」を支援してきたフォーブスのミダスリストの常連ということもあり、彼らと最初から意気投合した。
Brainの構想が生まれたのは2024年2月、サンフランシスコで行われたクシュナー、ギル、ビデガライのコーヒーミーティングだった。クシュナーは前年、アフィニティ・パートナーズのAI投資を主導させる人物としてビデガライを迎えていた。両者の関係は2016年の米大統領選にさかのぼる。当時、トランプ陣営でクシュナーと接点を持ったビデガライは、メキシコ国内で抗議を受けて外相を辞任したが、トランプ勝利後に復帰し、第1次トランプ政権でクシュナーと働いた経緯がある。
この会合で3人は、大企業や政府が新しいAIツールを業務に取り込めずに苦労している現状について議論し、その「橋渡し」を担う会社を立ち上げることを決めた。
「私たちは世代に一度のプラットフォーム転換のまっただ中にいる」とクシュナーはプレスリリースで述べた。「エラッドと話すうちに、シリコンバレー最高のAI人材と、世界で最も重要な組織とをつなぎ、グローバルなインパクトを生み出す機会があることに気づいた」
その後、3人はテック業界と政界から幅広く人材を集め、共同創業者兼会長にはウーを迎え、CEOにはメワルトを起用した。また、2024年9月には、メンタルヘルス分野のAIコンパニオンを手がけるSerene AIを買収。これにより、クラブハウス(音声SNSアプリ)で共に働いた経験を持つSerene AIの共同創業者ダン・アシュトン、ミルチャ・パソイ、レヴァント・カプールの3人が、追加の共同創業者としてBrainに加わり、アプリケーション開発に携わることになった。さらに、クシュナーのアフィニティに合流していたトランプ政権時代の元政府高官チャールトン・ボイドとニック・バターフィールドの2人が、最初の事業提携を進める役割を担っている。ギルによれば、クシュナーは、名目上の取締役にとどまらず経営に深く関与していくという。
アフィニティの資金力と中東マネー、運用総額約7000億円
クシュナーは2021年、義父であるトランプ大統領の政権で上級顧問を務めた後にホワイトハウスを離れ、アフィニティを設立した。最新の財務開示によれば、同ファンドはサウジアラビアやカタール、アラブ首長国連邦(UAE)の政府系ファンドから多額の支援を受けて、48億ドル超の資産を運用している。アフィニティがAI分野への展開を始めた今、ギルはフォーブスに対し、彼とクシュナーが互いに投資案件を紹介し合うようになっていると語った。


