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2025.09.29 11:00

磨くべきは「問いを立てる力」。AI革命期に求められるアートの素養と美意識

かつて産業革命に伴う機械化が肉体労働から人間を解放したように、AIが頭脳労働を代替する――。

激変する時代を前に、ビジネスパーソンはどのようなマインドセットで生き抜くべきか。

2024年に開催された、未来に向けた問いと対話を発信する都市型イベント「FUTURE VISION SUMMIT」で「経営シーンの未来形に求められる美意識とは?」をテーマとするディスカッションに登壇したPwCコンサルティングのパートナー、奥野 和弘が現代のビジネスパーソンに求められる役割について語った。


――AIの進化は「ビジネスのあり方や働き方を根底から変える」として大きな関心を呼んでいます。AIに精通する奥野さんは、そのインパクトをどう捉えていますか。

2022年頃に生成AIの登場を契機として始まった「第4次AIブーム」は、やがて「AI革命」として歴史に刻まれるはずです。18世紀の産業革命が肉体労働を機械へと置き換えたように、AI革命では頭脳労働の一部がAIに代替されていくと考えられます。実際、蓄積された膨大な情報をもとに与えられた課題を解決する能力において、AIが人間を凌駕する面があるのは確かです。既存の問いを参考にして、類似の問いを立てることも可能でしょう。

しかし、これまで誰も立てなかった新たな問いを立てることは、現時点のAIには不可能です。なぜならAIは、学習データに基づいた「もっともらしい応答」を確率的に導き出しているにすぎず、無から何かを創造しているわけではないからです。

つまり、AI時代に人間に求められる重要な役割は「いかに問いを立てるか」。

特に、社会やビジネスに有益な結果をもたらす問いを立てる作業は、今後ますます重要性を増していくでしょう。

この問いを立てる作業は、現代アートの制作過程にも通じるものがあります。アーティストは多様な側面や切り口で物事を捉え、それを表現に落とし込み、鑑賞者へ問題提起を行います。AI革命後の世界においても、こうした営みこそが価値を持つようになります。

PwCコンサルティング合同会社パートナー 執行役員 奥野 和弘
PwCコンサルティング合同会社パートナー 執行役員 奥野 和弘

問いを立てる=デザイン思考におけるリフレーミング

 ――ビジネス領域では、課題発見や解決策を導く思考法として「デザインシンキング」が注目されてきましたが、それとはまた異なる思考法が求められているのでしょうか。

日本では、2010年頃からデザインシンキングがブームになりました。デザインシンキングは、対象を徹底的に観察・共感するプロセスからスタートします。現象として見えている問題の背後にある「真の課題」を特定し、次にその解決アイデアを高速でプロトタイピングしながら、適切なソリューションを導く――こうしたアプローチによって、数多くの優れた製品やサービスが誕生しました。

一方で、デザインシンキングを「うまく使いこなせない」という声が多いのも事実です。観察と共感を行う過程で、つい目に見える現象としての問題に捕らわれてしまい、背後にある真の課題を深く考察する「リフレーム」が不十分になっているケースが目立ちます。

――「リフレーム」とは、どのようなプロセスですか。

自動車王と呼ばれたヘンリー・フォードの有名な言葉があります。「もし顧客に何が欲しいかと尋ねていたら、彼らは『もっと速い馬が欲しい』と答えただろう」というものです。

フォードは、顧客が本当に求めるのは馬そのものではなく、効率的な移動手段だったという点に着目しました。そして、「速い馬」を追求するのではなく、「自動車」という革新的な発想によって新たな市場と価値を創出しました。この発想の転換こそが、まさに「リフレーム」の典型例と言えるでしょう。

ただし、こうした見事なリフレーミングは、デザインシンキングのフレームワークを学ぶだけでは得られません。リフレームとは、先に述べた「誰も立てたことのない問いを立てる力」に他ならず、アーティストが創作活動で行うようなクリエイティビティが求められる領域なのです。

2025年4月、PwCが発表した世界経済の先行きを分析した調査レポート「Value in Motion」にあるように、現在のビジネス環境では産業構造そのものが再編されようとしています。このフェーズにおいては、既存の仕組みをどれほど観察しても解決策は得られません。必要なのは、社会や産業のあり方を再定義するような革新的な「問い」です。これこそが、いまビジネスパーソンに、アーティストと共通するクリエイティビティが求められる理由なのです。

産業革命や民藝運動がAI時代に与える示唆

――今後、課題の解決を支援するコンサルタントの仕事はどう変わるでしょうか。

コンサルタントにとって、すでに顕在化している課題の解決という仕事の価値は、今後確実に低下していくでしょう。日本企業は長らく国内市場にフォーカスし、地道な改善や効率化を重ねることで目の前の課題に対応してきました。

しかし、過去10年を振り返れば、世界ではライドシェアや民泊といった、既存の産業構造を揺るがすようなサービスが次々と生まれています。これらのイノベーションは、工夫や改善の延長ではなく、ビジネスモデルそのものを本質的に再定義するところが出発点になっています。

従来型の課題解決は、AIが担える領域になりつつあります。解決策を提示し、その手順まで説明するというプロセスも、AIが実行するようになるでしょう。そのような時代にコンサルタントが担うべきは、より根本的な問題に焦点を当て、変革のブループリントを提示することです。AIに置き換えられる業務は淘汰されていき、私たち人間には、より高い価値のある革新的なサービスを生み出すことが求められていくはずです。

 ――ビジネスパーソンは、AI革命をどのように生き抜くべきでしょうか。

冒頭で18世紀の産業革命について述べましたが、この革命ですべての肉体労働が機械に置き換わったわけではありません。むしろ、モダンデザインの父と称されるウィリアム・モリスらのアーツ・アンド・クラフツ運動や、美術評論家・柳宗悦らの民藝運動に代表されるように、人々の日常における美的環境を見直し、手仕事の価値を再認識する動きが広がっていきました。職人たちは「いかに機械生産よりも良いものを生み出すか」と考えるようになっていったのです。また、1919年にドイツに設立された芸術学校・バウハウスの活動により、機械生産を前提としつつ、そこに人間の美意識を反映させる「インダストリアルデザイナー」という新たな職も生まれました。

こうした歴史は、現在のAI革命にも示唆を与えてくれるでしょう。AIは単に人間の頭脳労働を奪う存在ではありません。むしろ「AIには導き出せない、人にとってより良い未来をどうデザインするか」「そのためにどのような問いを立てるか」という仕事へと人々の関心をシフトさせることになるのでしょう。

そのために私たちに求められるのは、一人ひとりが生活と社会をより良いものにする契機を鋭敏に感じ取る力、つまり美意識です。そして、より良い社会の姿について自分なりのビジョン、すなわち美学を持つことです。

――一人ひとりが美意識や美学を磨くことが重要なのですね。

これは個人に限った話ではなく、企業においても同様です。私は企業のパーパス(存在意義)を「企業の美学」と捉えています。その背後にある美意識を従業員がしっかりと理解し、共感することで、日々の仕事におけるアウトプットの質は各段に高まるはずです。

実際、先進的な企業のなかには、従業員にアーティストの視点を学ぶ機会を提供している事例もあります。先に述べてきたように、この学びが新たな問いを立てること、既存の枠組みを超えた発想につながっていくのです。AI革命が進んでいる今こそ、私たち企業人は革新的な問いを立てる力を磨く必要があります。その手立てとして、アートの素養が不可欠なのです。

PwC Japanグループ


おくの かずひろ◎PwCコンサルティング合同会社パートナー、執行役員。専門分野・担当業界は公共・まちづくり分野におけるデジタル活用。約20年にわたって主にITベンダーのコンサルタントやセールスコンサルタントとしてクライアント支援に従事。多種多様なテクノロジーに精通する。その後、芸術系大学院で社会デザインを学び、PwCコンサルティングでは、Society 5.0に代表されるような、複数の産業やテクノロジー領域が関係するクロスドメインの課題において、デジタルを活用した解決策のデザインに携わる。

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