暗号資産市場の成長を支える存在として注目を集めるのが「ステーブルコイン」だ。ドルや米国債を裏付けに発行され、価格の安定性を売りにしているが、米国内では依然として法制度の整備が不十分との懸念が強い。世界の基軸通貨であるドルを中心に金融秩序を築いてきた米国にとって、この規制問題は単なる暗号資産の話にとどまらない。特にトランプ政権が主導した「GENIUS法」をめぐっては、米国内外の経済学者が安全策の欠如を批判している。そのため、投資家や企業にとって今後の行方が大きな関心事となっているのだ。
急拡大するステーブルコイン市場、その規模は約44兆円に迫る
暗号資産市場は発展を遂げたが、主要な目的の1つである“ドルに代わる決済手段”になれていない。その背景には、価格のボラティリティ(変動)が激しく、米政府の裏付けがないという課題がある。そのためこの業界の参加者らは、米国債やドルに裏付けられたステーブルコインを主な決済手段に使用している。
ステーブルコイン市場は近年急速に拡大しており、時価総額は3000億ドル(約44.1兆円。1ドル=147円換算)に迫っているが、これまでの主な利用は、インフレ率が高く自国通貨への信頼が低い国々に限られていた。一方、西側諸国では主に暗号資産の資金の出し入れに使われている。
ステーブルコインの魅力の一部は、デジタル台帳上で迅速な取引が行えることにある。特に国際送金においては、従来の仕組みでは、決済に数日がかかる場合があるため大きな価値を持つ。英誌エコノミストは、「ステーブルコインはVisaやマスターカードなどの仲介業者を排除することで取引コストを削減できる可能性がある」と報じている。
トランプ政権がGENIUS法で後押し、財務長官は市場規模294兆円を予測
そんな中、ステーブルコインは米国を「世界の暗号資産の中心地」にすることを望むトランプ米大統領の強力な支持を背景に大きな飛躍を遂げようとしている。
7月半ばにトランプは、「GENIUS法」に署名した。この法律は、ステーブルコインに対する初めての連邦規制の枠組みを設けるものだ。同時に、このステーブルコインが証券ではないことも明確にした。発行者に対して米ドルまたは短期国債による100%の準備資産を用意することや、毎月の資産構成の開示を義務付けている。
スコット・ベッセント財務長官は、ステーブルコイン市場がわずか3年で2兆ドル(約294兆円)規模に達する可能性があると述べている。彼は、発行者が現金ではなく米ドルの短期国債を裏付け資産に選ぶとも見込んでいる。そうなれば、ステーブルコイン発行者は米国債の安定的な買い手となり、結果として政府の資金調達を支える手段にもなり得ると考えているのだ。



