暗号資産

2025.09.14 08:00

トランプ政権の「ステーブルコイン」推進──経済学者が規制の不備に警鐘

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政府の信用による裏付けがなく、FRBの支援も対象外となるGENIUS法の不備

経済学者のスティーブン・チェチェッティとカーミット・ショーエンホルツは、欧州の経済政策研究センター(CEPR)の報告書でこれらの問題やその他の論点を取り上げている。彼らは規制が強化される可能性について楽観的ではなく、GENIUS法の条項に「ステーブルコインは米国政府の全面的な保証(full faith and credit)を受けるものではない」と明記されている点を指摘している。

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また、この法律はノンバンクのステーブルコイン発行者に対し、連邦準備制度(FRB)の短期貸出制度へのアクセスを認めていない。この制度は、金融機関が一時的な流動性不足に陥った際の命綱となるものだ。したがって、ステーブルコインは米国債を直接保有する場合に比べて裏付けが弱いとみなされる。

チェチェッティとショーエンホルツはまた、大統領の「デジタル資産ワーキンググループ」の提案について、本来は企業が負うべき新しい金融商品の安全性を証明する責任を、逆に規制当局に押し付けていると指摘している。すなわち、規制当局が申請を拒否するには強固な根拠を示す責任を負い、それができなければ申請は自動的に認められる仕組みなのだ。

JPモルガンとブラックロックが開発、機関投資家に向けた新たな選択肢

現在のステーブルコインに代わるものとして、彼らは2つの選択肢を取り上げている。それは、JPモルガン・チェースのトークン化預金(JPMD)と、ブラックロックのトークン化マネー・マーケット・ファンド(BUIDL)だ。いずれも機関投資家を対象としているが、JPMDはまだ実験段階にあるのに対し、BUIDLはすでに利用可能だ。それぞれの特徴を詳しく見ていこう。

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預金保険のあるJPMDとMMF型のBUIDL

JPMDは既存の預金とほぼ同じ性質を持つ。すなわち、利息がつき、額面で償還され、連邦預金保険公社(FDIC)の制度により、万が一の際には保護される。さらにJPモルガン・チェースのバランスシートで裏付けられている。発行は複数通貨で行い、国境を越えた送金や為替決済に対応する内部市場の構築を目指している。

一方、BUIDLは政府系のマネー・マーケット・ファンドに近い性質を持つ。利息は支払われるものの保険はなく、発行元は「大きすぎて潰せない」と暗黙に考えられているが、中央銀行への直接的なアクセスはない。ただし、裏付け資産は現金、短期国債、担保付きの短期貸借取引(レポ取引)で構成されている。このため、額面通りに償還される可能性が高いと見なされている。

結論として、この2つの金融商品はJPモルガンとブラックロックの強固なバランスシートに支えられていることから、機関投資家にとってステーブルコインよりも大きな利点を提供する。しかし、これらのサービスは現時点では個人投資家に開放されていない。

個人投資家には届かぬ選択肢、発行体の健全性が問われる「買い手のリスク」

したがって、ステーブルコインの規制が強化されないままであれば、購入者は「買う側がリスクを負う」という事実を真剣に受け止める必要がある。その理由は、ステーブルコインの安全性が最終的には発行主体となる金融機関の健全性に依存しているからだ。

forbes.com 原文

翻訳=上田裕資

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