経済学者ロゴフが警鐘、GENIUS法は「規制の骨格に過ぎない」
しかし、トランプ政権によるステーブルコインの支持は、著名な経済学者たちの批判を招いていることが国際的なオピニオン配信組織Project Syndicateの分析で示された。その主な論点は、GENIUS法にはステーブルコインの購入者を保護し、金融の安定を確保するための十分な安全策が盛り込まれていない点だ。
ハーバード大学の経済学者ケネス・ロゴフは、トランプ大統領が暗号資産を最小限の監督で主流の金融システムに取り込もうとして、この法律を推し進めたと指摘している。彼は、ステーブルコインの裏付けに安全で流動性の高い資産を求める条項には賛同している。しかしその一方で、GENIUS法そのものは「単なる規制の骨格に過ぎない」と批判的だ。
ロゴフは現在の状況を、銀行が独自の通貨を発行できた19世紀の「自由銀行時代」にたとえている。彼は、現在の金融機関が当時よりもはるかに強固だと認めているが、当時は数多くの銀行の取り付け騒ぎが発生したことが知られている。
ノーベル賞学者ジョンソンが指摘する、利回り追求が生むビジネスモデルの脆弱性
ノーベル賞受賞経済学者のサイモン・ジョンソンは、GENIUS法と現在審議中のCLARITY法の両方について、「強力な資本規制や流動性規制など、安全策を盛り込んだ合理的な規制を阻止するために設計された」と批判している。ジョンソンは、ステーブルコイン発行者のビジネスモデルについても指摘する。保有者に利息を支払わない(GENIUS法が保有者への利息支払いを認めていない)一方で、裏付け資産からは利回りを得られるため、その差(スプレッド)が収益となる構造だ。この仕組みが一部の発行者に過度な利回り追求を促し、脆弱性の要因となる可能性があると警告している。
こうしたビジネスモデルを代表するのが、現在の主要なステーブルコインであるテザーのUSDTとサークルのUSDCだ。この2つで市場規模の約85%を占めている。
SVB破綻時に起きたUSDCの価格乖離、ステーブルコインのリスクが現実に
2023年3月にシリコンバレー銀行(SVB)が破綻した際に、このリスクは現実のものとなった。当時、サークルのステーブルコインはSVBへのエクスポージャーを抱えていたため、一時的に1ドル(約147円)のペッグを維持できなくなり、価格は86セント(約126円)まで下落した。その後、サークルが保有資産を全額回収できると発表したことで回復した。一方、テザーはSVBへのエクスポージャーがなく、投資家がより安全な避難先を求めたことで利益を得た。
こうした点を踏まえると、ステーブルコインに関心を持つ投資家は2つの論点を考慮する必要がある。1つ目は、購入者を保護し金融の安定を促すために今後、規制が強化される可能性はどの程度あるのか。そして2つ目は、現在提供されているステーブルコインに代わる選択肢として何が考えられるのかだ。


