ブルネロ クチネリの服は、なぜ時代を超越した普遍的な魅力を湛えるのか。それはブルネロ・クチネリ氏が変化する価値観を見据え、人々の本能へと訴えかける“美しさ”を昇華してきた証なのだ。
現在は“変化の時代”と表現される。インターネットの普及によって地球規模の情報交換が瞬時に行えるようになり、世界中から日々届く新たな情報が、社会のあらゆる面で変化を促した。しかもその変化は、加速度的にスピードを増している。そんな変化の激しい世界で、1978年の創業以来今日までその確固たる信念が支持されてきたのが、イタリアの小村ソロメオを本拠地とし、職人技術に基づいた製品づくりを行うファッションブランド、ブルネロ クチネリである。創業者にして経営者、そしてデザイナーでもあるブルネロ・クチネリ氏は、流行が現れては消える現代をどうとらえ、どのようにブランドのかじを取っているのか。
末永く受け継がれる美しさとクオリティ
「私が創業時に抱いていた思いは、美しい最高品質の製品を生み出すことでした。なぜなら私は、それらがまるで家族の宝物のように時を超えて受け継がれ、あるいは人と人との絆の象徴として大切にされていくことを願っていたからです。“美しさ”とは時代を超えるものであり、人の魂に直接語りかける力があると、私は信じています。そもそも人はみな、それが真に美しく丁寧につくられたものか、そして人や地球を傷つけることなく生まれたものかを、本能的に見極める力をもっているのです」
ファッションブランドとして成功するには、トレンドや流行品を生み出すのが近道のひとつであった。だが、それらが長く着続けられることは少ない。急激に浸透したものは、飽きられるのも早いからだ。対して氏が創業時より追求してきた、美しさと品質を主眼とするものは、得てして末永く愛される。品質の高さは普遍的な価値であり、美しさは時流と一線を画す、人間の本能に訴えかけるものだからである。そんな氏の思想は、次のような言葉にも表れている。
「私たちが最も大切にしているのは、人々の仕事の“質”とその“意義”です。特に若い職人たちの表現の源である創造性と才能は、私たちの会社にとって何物にも代え難い財産。私たちが運営する職業訓練校・ソロメオ現代高度芸術工芸学校を通じ、そんな創造性と才能あふれる若者たちが日々育っているのは喜ばしいことです。
ただ、現代の若者たちは、課題が生じると議論をせず、パソコンへ向かい、インターネットで解決しようとします。私は彼らに、もっと人間同士の議論を大切にしてほしいのです。なぜなら創造性は議論から生まれるからです。また一般的になったリモートワークについても、難しさを理解してほしい。ものづくりはリモートだけでは絶対に不可能です。家にこもった状態で、いったいどうやって他者に何かを伝えられるのでしょうか」
パソコンに囲まれた現代の若者たちは、総じてコミュニケーションに苦手意識があり、現物を見ずにネットで服を買う。だから氏は、彼らが切磋琢磨し、世界最高峰の服と素材に触れながら学べる職業訓練校を創設したのだ。



