アート

2025.09.11 16:15

妖しく美しい血赤 天才「絵金」の屏風を土佐で見る

「美しいとは何か」 絵金のいた土佐へ向かう

二曲一隻屏風『播州皿屋敷 鉄山下屋敷』一部
二曲一隻屏風『播州皿屋敷 鉄山下屋敷』一部

かつて幕末の土佐に、「絵金さん」と呼ばれ親しまれる町の人気絵師がいた。

advertisement

絵師の金蔵、人呼んで絵金が用いる鮮烈な赤は「血赤」とも評され、ときに地に横たわる生首とともに血飛沫となって屏風に散っている。その赤は強烈かつ刺激的で、ときに官能的でさえある。本来は魔除けの役割があるとされるのも頷ける。

「おどろおどろしい」「妖しい」「恐ろしい」等と評されることの多い絵金の絵は、不思議とそれと同時に「美しい」とも形容もされる。「おどろおどろしい」と「美しい」が混在する絵金の絵は不思議である。それゆえ、私は絵金の絵を見るたびに、その迫力に圧倒されながらも「美しいとは何か」ということを考えさせられている気がする。

そんな絵金の作品を、私は東京の部屋でときどき図録をひっぱり出し眺めるばかりだったが、今年の夏に思い立って高知へと向かった。行き先は高知市から東南に位置する赤岡という海辺の小さな町である。

advertisement

赤岡では毎年夏になると「土佐赤岡絵金祭り」が開催される。各商家が代々所蔵してきた絵金作の屏風絵を、夕暮れより軒先で一斉に展示するという一風変わった祭りだ。いわば一年のうち夏の2日間だけ、陽が落ちる頃に、赤岡の町は絵金の町へと様変わりするのである。

初めて降り立った高知は7月の夏盛り、どこか南国の情緒を感じさせる雰囲気で、幼少期にたびたび訪れた九州の鹿児島を思い出した。空港から宿をとった高知市内の繁華街はりまや町へ向かうと、大通りを挟んで東西にアーケード街が伸びており、その大通りの中心を高知駅方面へと向かう路面電車がどこか懐かしい音を立てながら走っていた。

土佐民謡「よさこい節」の一節にも登場するはりやま橋(復元)。絵金はここからほど近くのはりやま町2丁目に生まれた
土佐民謡「よさこい節」の一節にも登場するはりやま橋(復元)。絵金はここからほど近くのはりやま町2丁目に生まれた

高知駅から電車に揺られ40分ほどであかおか駅に到着、海を背にして少しばかり歩いて、目的の会場に到着した。夕暮れ時の商店街を人混みにまぎれてしばらくぶらぶらしていると、いよいよ陽も落ち始め、あたりはやがて夜の帳に包まれる。

夏の熱い太陽と入れ替わるように和蝋燭に火が灯され、かつて絵金がこの地で描いた屏風絵が、新たな命を吹き込まれたかのように闇夜に浮かび上がる。はるか時空を超えて——虚と実が入り混じるような、あるいは生と死が交わるような——そんな「あわい」の時間が町におとずれる。

今年(第49回)の土佐赤岡絵金祭りの風景
今年(第49回)の土佐赤岡絵金祭りの風景

なぜこの絵金祭りが赤岡という町で開催されるのか、それには絵金が歩んだ人生に深く関係している。

次ページ > 御用絵師の名誉を失い、流浪 町の人気絵師へ

文・写真=長井究衡

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事