サイエンス

2025.09.14 10:00

量子技術がやって来る──コンピューティングの変革とセキュリティの危機

IBMによる、ヨーロッパ初の量子データセンター(Quantum Data Center)より。 Photo by Marijan Murat/picture alliance via Getty Images

IBMによる、ヨーロッパ初の量子データセンター(Quantum Data Center)より。 Photo by Marijan Murat/picture alliance via Getty Images

今日の世界において、量子技術はもはや単なる理論物理学上の遠い概念ではない。そう遠くない未来に、それはコンピューティング、サイバーセキュリティ、データ分析に関する従来の理解を根底から覆す破壊的な力となるだろう。量子イノベーションは、医療や金融から物流、国家安全保障に至るまで、あらゆる分野で革命を促す。それは新たな能力をもたらすと同時に、これまでにない危険も引き起こすだろう。

官民双方のリーダーは、量子技術が研究室の試作品から実社会で利用される段階へと移行する、この技術的な変曲点に備え始める必要がある。迅速に行動する者は、新たな脅威に対処しつつ、急速に変化する環境下で先行者利益を享受することができる。

量子的飛躍:コンピューティングの考え方を変える

量子領域におけるコンピューティングは、従来のコンピューティングとは根本的に異なる方法で機能する。従来のマシンが0と1で表される2進法のビットを用いてデータを処理するのに対し、量子コンピューターは「量子ビット」(qubit)を利用する。量子ビットは、「重ね合わせ」(superposition)と「エンタングルメント」(entanglement、量子もつれ)という性質により、複数の状態を同時に存在させることが可能である。これにより、量子システムは、古典的なシステムでは何年もかかるような複雑な計算を、驚異的な速度で実行できる可能性がある。

量子技術が影響を与える優先度の高い分野には、機械学習や人工知能との融合、情報セキュリティ、バイオテクノロジーとゲノミクス、創薬、材料科学、リアルタイム分析、エネルギーモデリング、金融取引モデリングとポートフォリオ最適化、物流、宇宙システム、そして進化を続けるメタバースや没入型技術などが含まれる。

この計算能力の急激な向上は、高スループットのデータ処理やリアルタイム分析に依存する産業にとって特に重要である。物理学者はこの時期を「ノイズあり中規模量子」(Noisy Intermediate-Scale Quantum。NISQ)の時代と呼んでいる。しかし、私たちはまだその初期段階にある。今日の量子マシンはエラーを起こしやすく、規模も限られており、周囲の環境の乱れに敏感である。

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翻訳=酒匂寛

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