サイエンス

2025.09.14 10:00

量子技術がやって来る──コンピューティングの変革とセキュリティの危機

IBMによる、ヨーロッパ初の量子データセンター(Quantum Data Center)より。 Photo by Marijan Murat/picture alliance via Getty Images

脅威領域の拡大:Q-Dayの危険

しかし、量子コンピューティングは情報セキュリティとプライバシーに重大なリスクをもたらす。これは民間企業と公的機関の双方にとって深刻な脅威である。量子コンピューティングに関連する最も差し迫った懸念の1つが「Q-Day」として知られるサイバーセキュリティ上の事象である。これは、量子コンピューターがRSA、ECC、Diffie-Hellmanといった現在広く使われている公開鍵暗号方式を破るのに十分な性能を持つようになる、仮説上の時点を指す。

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Q-Dayの到来は数年先かもしれないが、長期的な価値を持つデータはすでに危険にさらされている。なぜなら、攻撃者は暗号化されたデータを現時点で入手しておき、将来量子システムが発展した際にそれを解読することができるからだ。この脅威は「今は保存し、後で解読する(store now, decrypt later)」や「Harvest Now Decrypt Later攻撃(ハーベスト攻撃)」と呼ばれることがある。

進展状況

量子技術の進歩が加速する中、主要なプレイヤーたちは目標を注意深く監視している。企業は量子コンピューティングの実現可能性の限界を押し広げようとますます努力しており、それぞれがハードウェアのアーキテクチャ、ソフトウェアの統合、そして商業的な実用化の点で異なるアプローチをとっている。

グーグルは2019年に「量子超越性」(quantum supremacy、現在の古典コンピューターでは事実上不可能、あるいは現実的な時間では解けないような計算タスクを、量子コンピューターが圧倒的な速さで実行すること)を実証し、大規模な誤り訂正量子ビットシステムの開発に引き続き尽力している

IBMは「IBM Quantum Network」を利用して量子ハードウェアの商業化を進めており、1000量子ビットを超えるコンピューターの開発につながるロードマップを発表している

マイクロソフトは、量子クラウドサービスを統合し、トポロジカル量子ビットを研究するプラットフォーム「Azure Quantum」を開発した

Quantum Computing Inc. (QCI)は、利用しやすく、すぐに導入可能な光量子システムの開発におけるパイオニアである

IonQRigettiD-Wave、そしてハネウェルのスピンオフであるQuantinuumは、イオントラップ方式、超伝導方式、アニーリング方式の分野で技術革新の最前線にいる

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これらの企業の協調的な取り組みを通じて、理論的な可能性と現実世界での実用化との間のギャップを縮める、競争的なイノベーション・エコシステムが確立されつつある。量子技術への投資と特許活動は劇的に増加しており、これは商業化が多くの人々が予想するよりも早く到来する可能性を示している。

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翻訳=酒匂寛

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