スポーツ

2025.09.10 18:15

「15兆円市場」を目指す日本のスポーツビジネスの歪な道筋

日本のスポーツGDP9.5兆円という輝かしい数字の裏で、その経済活動が「公営競技」に大きく依存しているという「不都合な真実」を明らかにした。コロナ禍からの驚異的な回復劇を演じた主役が、プロ野球やJリーグではなく、競馬や競輪であったという事実は、日本のスポーツ産業が抱える構造的な歪みを浮き彫りにしている。

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この構造は、果たして持続可能なのか。そして、政府が掲げた「2025年までにスポーツ市場規模を15兆円に拡大する」という壮大な目標は、いつまでに、どうすれば達成可能なのか。ここでは、この公営競技依存の構造がもたらすリスクを分析し、日本のスポーツ産業が真の「成長産業」となるための具体的な処方箋を提言したい。

「15兆円市場」へのロードマップに潜む罠

15兆円という目標達成への道筋を考えるとき、我々は二つのシナリオを想定しなければならない。一つは、既存の構造の延長線上で、公営競技のさらなる市場拡大に期待する道。もう一つは、プロスポーツや市民スポーツといった、より広範な「スポーツ文化」そのものを成長させ、公営競技への依存度を相対的に下げる道だろう。

前者の道は、短期的には目標達成への近道に見える。しかし、それは極めて危うい選択だろう。公営競技は、その収益を国や地方自治体の財源に充てるという側面も持つが、本質的には賭博であり、射幸心を原資とするビジネスである。その市場拡大を「スポーツの成長」と同一視することは、社会的なコンセンサスを得られにくいだけでなく、青少年の健全育成や、健康増進といった、スポーツが本来持つべき「社会的価値」の追求とは相容れない側面を持つ。15兆円という数字だけを追い求め、その中身が公営競技で「かさ上げ」されたものであれば、それは果たして真の「スポーツ立国」と呼べるのだろうか。

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日本が目指すべきは、後者の道のはずだ。それは、DBJのレポートも示唆するように、「スタジアム・アリーナ改革」を起爆剤とし、プロスポーツを核としたビジネスエコシステムを構築する道だ。北海道日本ハム・ファイターズが拠点とするエスコン・フィールドのように試合開催日以外も収益を生む多機能複合施設への進化、デジタル技術を駆使した新たなファン体験の創出、そしてスポーツを核とした地域活性化。これらこそが、持続可能で質の高い成長を実現するための王道だ。しかし、その成長スピードは、公営競技のそれと比較すれば、遥かに地道で時間を要するものであることを覚悟しなければならない。

次ページ > 公営競技依存から脱却するための3つの戦略

文=松永裕司

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