未来のフロンティアを拓くために
日本のスポーツ産業は、9.5兆円という巨大な経済基盤と、公営競技という強力なエンジンを持つ。この事実は、安定性をもたらす一方で、我々が進むべき未来の針路を見誤らせるリスクをはらんだままだ。
真の「スポーツ立国」を目指すならば、この「不都合な真実」から目を背けてはならない。公営競技が果たしてきた役割に敬意を払いつつも、その巨大な存在に安住するのではなく、プロスポーツが自らの足で「稼ぐ力」を身につけ、市民スポーツの裾野が社会の隅々まで広がる、多様でバランスの取れた産業構造を構築していく必要がある。
スタジアム改革、DX、新たな収益モデルの模索、そしてグラスルーツの育成。15兆円市場への道は、決して平坦ではない。しかし、その地道な挑戦の先にこそ、日本のスポーツが文化や感動の源泉であるだけでなく、社会を豊かにし、経済を牽引する真の成長産業となる未来が待っている。そのフロンティアを切り拓くことこそ、今を生きるスポーツ関係者に託された、最もエキサイティングな使命ではなかろうか。
「ではのかみ(出羽守)」と揶揄されるかもしれないが、欧米では銃の乱射事件、テロ事件の際など、試合後の定例会見でさえ、監督、選手がその見解、社会的立場を明らかにする。スポーツ関係者には、それだけの責任と立場があると共通認識されているからだ。またチームやクラブに勤務しているだけで、それなりに社会的立場にあり、心服されている。だが、日本では「たかがスポーツ」と一刀両断されるケースも稀ではない。日本スポーツ界の経済的成長は、「日本におけるスポーツの社会的地位向上」にも直結する。
教育分野におけるスポーツの捉え方においても課題が浮き彫りになり、部活動の民営移譲なども促進される時代を迎えている。第二次世界大戦後の軍隊教育に根ざした体育からの脱却を早期に実現し、「日本におけるスポーツの社会的地位向上」のためにも、「2025年=15兆円」にとらわれることなく、不都合な真実の先に、希望の道筋を描き、さらなる産業成長を目指したい。


