戦略2:「する・ささえる」市場の裾野拡大
スポーツ産業は、トッププロの世界だけで成り立っているわけではない。むしろ、その土台を支えるのは、市民がスポーツを「する」、あるいは地域でスポーツを「ささえる」という、広大なグラスルーツの活動である。スポーツ用品、施設運営、指導者育成、スポーツツーリズムといった分野の裾野を広げることは、産業全体の持続的な成長に不可欠だ。DBJのレポートが示すように、「消費」や「雇用」といった側面からスポーツを捉え直し、市民一人ひとりのスポーツへの関与を深めていく地道な取り組みこそが、公営競技のような特定のセクターに依存しない、真に強靭な産業構造を築くための礎となる。地道ではあるが、次世代のためにも推し進めなければなるまい。超高齢化日本において健康寿命を確保するうえでも、市民レベルのスポーツ実施率向上は急務でもあるはずだ。自宅を一歩出れば気軽にスポーツを楽しめる…そんな公共施設、その運用も大きく前進させる手段だろう。
戦略3:スポーツベッティングの健全な導入議論
公営競技が巨大な市場を形成している背景には、合法的な「賭け」のプラットフォームが存在するという事実がある。一方で、Jリーグなどを対象としたスポーツ振興くじ「toto」の市場規模は、公営競技には遠く及ばない。この非対称性を是正し、プロスポーツ自体が新たな収益源を確保するための一つの選択肢として、「スポーツベッティング」の導入議論を本格化させるべき時期に来ている。そもそもスポーツ振興センター(JSC)は「toto WINNER」を「くじ」と言い張るものの、カラクリとしては完全にベッティング。これをそれこそスポーツ振興のために拡充する戦略はあり得るはずだ。
もちろん、八百長防止策やギャンブル依存症対策といった、健全性を担保するための厳格なルール設計が大前提となる。しかし、海外の成功事例に学び、透明性の高い制度を構築できれば、それはファンエンゲージメントの向上と、リーグの財政基盤強化に大きく寄与するポテンシャルを秘めている。
そもそもスポーツベッティングを容認しない日本市場はお得意のダブル・スタンダード、二枚舌。パチンコも競馬も競輪も競艇も完全に市民権を得ているにもかかわらず、スポーツベッティングだけを封印するのか、おそらく誰も正論を唱えることはできないだろう。「ギャンブル依存症」を盾にスポーツベッティング導入禁止を叫ぶのであれば、即刻公営競技を廃止すべきだ。「toto WINNER」によりスポーツ振興を促進するのは現行路線であり、これを拡充する施策であるなら、世論も腹落ちさせられるだろう。
ましてや2025年4月には大阪でカジノリゾート建設に向け、ついに着工と相なった。30年秋には日本で初めてのカジノリゾートが誕生する。カジノは実施されるにもかかわらずスポーツベッティングを禁じ手とするのは、矛盾以外の何物でもない。オンラインベッティングによる手軽さを問題視する向きは多いゆえ、このリゾートにおけるベニュー限定で実証実験するだけでも意味はある。
実際、Jリーグは海外ベッティングに向け、そのデータを販売している。すでに海外のベッティング企業は、日本のスポーツを対象とし大きな収益を上げているのが現実だ。つまり日本のスポーツ界が、この巨額の収益を指を咥え眺めているだけ、海外企業に搾取されるまま。こうした取り組みを促進しない脳死状態の日本市場ではあるが、少なくとも「成長」を目指すのであれば、この現状を打破する戦略を打ち立てるべきだ。


