スポーツ

2025.09.10 18:15

「15兆円市場」を目指す日本のスポーツビジネスの歪な道筋

公営競技依存から脱却するための3つの戦略

では、日本のスポーツ産業が公営競技への過度な依存から脱却し、多様で強靭な収益構造を構築するためには、具体的に何をすべきか。ここでは3つの戦略を提言したい。

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戦略1:プロスポーツの「稼ぐ力」の徹底強化 
JリーグやBリーグといったプロスポーツリーグは、欧米のトップリーグと比較し、放映権料やスポンサーシップ収入といった「稼ぐ力」において、まだ大きな伸び代を残している。リーグやクラブは、単なる試合の運営団体から、魅力的なエンターテインメントコンテンツを創造・提供する「メディア企業」へと脱皮する必要がある。

スポーツ関係者は認識している通り、MLBは四半世紀前の2000年、30球団の出資により「MLBアドバンスドメディア(MLBAM)」を設立。2003年にはMLB.TVをスタートさせ、独自のネット配信の基礎固めを始めた。2005年あたりから毎年2回ほどこのMLBAMに足を運んでいた私としても、その充実ぶりに毎回、目を丸くしたほど。大谷翔平によるホームランの打球速度、角度、飛距離などを瞬時に算定してみせるStatCastもここから生まれた。BAMはこのノウハウによりアイスホッケーNHLやプロレスWWEの配信にまで進出。この間、日本のプロ野球は指をくわえて眺めていたのみ。いまだにDAZNをしても12球団の公式戦中継を視聴できないのが現状だ。もちろんと言ってはなんだか、バスケのNBAも同様の方針を歩み、試合配信を含めもはやメディア企業と捉えても差し支えないレベルの成長を遂げている。NBAが先日、日本国内ではNTTドコモと独占配信契約を締結した事実などは、その象徴としていい。

リーグ主導での放映権の一括管理と戦略的な販売、データ分析に基づいたスポンサーシップ価値の可視化、そしてファンエンゲージメントを高めるためのDX(デジタル・トランスフォーメーション)への積極的な投資が不可欠。つまり日本にはこの伸び代が残されたままだ。ここ数年、ホークアイの導入により、データをリーグで一括管理と言い始めているが、果たしてどのようなマネタイズを描いているのか、見ものでもある。プロ野球においては12球団がそれぞれのエゴで個別に利益を追求するのみ。よってMLBのように中央集権的に、権利ビジネスを一本化し得ない点、数十年に渡りビジネスの成長を阻害し続けている。日本のスポーツ・リーグはこの先、この領域でどんな戦略を描いていくのだろうか。

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また、別視点からの「稼ぐ力」の一つのヒントは、25年7月に新設された「愛知アリーナ」がネーミングライツを英国のIG証券に販売「IGアリーナ」とした点、NTTグループは24年9月、保有していたJリーグ大宮アルディージャをオーストリア企業であるレッドブルに譲渡した点に見て取れる。つまり30年以上停滞する日本経済に見切りをつけ、外資の力を呼び込むことでスポーツ市場を活性化させる投資を促進、ビジネスを構築しなおすのも、策とすべきだろう。もはや、内需のみを糧として固執するような古い概念を捨て去る時代が来ている。

次ページ > 「する・ささえる」市場の裾野拡大 

文=松永裕司

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