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2025.09.11 14:15

生きた昆虫を脳制御。超薄型電子回路装着「サイボーグバチ」、国防任務に実用化

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超薄型設計━━昆虫の羽のように薄いフィルム上に

突破口となったのは超薄型設計だ。研究チームは、昆虫の羽のように薄く柔軟なポリマーフィルム上に電子回路を印刷した。繊細な外観ながら、複数の集積チップを搭載し、遠隔指令を受信する赤外線受信機も組み込まれている。

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Getty Images(写真はイメージ)

さらに、趙氏のチームはハチとゴキブリの運動力学を詳細に分析した。9種類の異なるパルス設定により、旋回や直線移動など特定の動作と信号の組み合わせをマッピング。ゴキブリは、ほとんど誤差なく直進させることができ、ハチも空中で精密に旋回できることが可能となった。

しかし、課題も残る。電力供給は依然として大きな障壁で、現行バッテリー技術では無線飛行が困難なため、ミツバチは有線電力に依存せざるを得ない。十分な稼働時間を持つバッテリーは600ミリグラムにもなり、蜂が運ぶには重すぎる。また、昆虫の行動には個体差があり、同じ信号でも異なる反応を示す場合がある。さらに、蜂の脚部や腹部は指令への応答が鈍く、全身制御には限界があることも示唆されている。

研究者らは、これらの課題を十分に認識している。論文では、電気信号や刺激手法を改良することで昆虫の行動制御の再現性を高める計画を示している。また、制御用バックパックの機能を拡張し、偵察・探知・災害対応など実世界の任務遂行に不可欠な、より豊かな環境知覚能力をサイボーグ昆虫に与える方針だ。

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サイボーグ昆虫技術をめぐる覇権争いは激化している。かつては※米国防高等研究計画局(DARPA)が先導し、日本も安定した存在感を示していたが、現在では中国が両国を凌ぐ勢いを見せている。強力な国家資金と巨大な電子機器製造エコシステムを背景に、中国の研究者たちは単に追随するだけでなく、新たな記録を打ち立てつつある。

かつて「レンタル蜂」(rent-a-bee)による受粉サービスや戦場監視など、サイボーグ昆虫は空想科学の域を出ない技術に留められていた。しかし北京理工大学のマイクロコントローラーは、この概念を現実の高度技術へと押し上げ、機械と生物学、そして両者のあいまいな境界線に対する我々の認識を再構築する可能性を秘めている。 



・『中国機械工学雑誌』(Chinese Journal of Mechanical Engineering):中国のトップクラスの学術雑誌であり、中国の機械工学分野の基礎理論、革新的な工学技術応用、および学際的領域における最新の成果を発表するプラットフォーム

・米国防高等研究計画局(DARPA):軍で用いる新技術 開発及び研究を行うアメリカ国防総省の機関




※本稿は英国のテクノロジー特化メディア「Wonderfulengineering.com」の記事からの翻訳転載である)

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