暮らし

2025.09.14 15:00

多様性を受け入れるインドネシアの贈り物:The GIFT(宮柱明日香 武田薬品工業)

贈り、贈られたモノや体験は、人生を変えるほどの力を持つことがある。企業のトップ、リーダーたちが経験した、モノや体験に介在する特別な思い入れを紹介する。自身の生き方、サクセスストーリーにも影響を及ぼしたであろう「GIFT」の逸話には人間味あふれる姿がある。希薄化も言われる現代の人間関係とは異なる、特別な関係だ。


THE GIFT #27

宮柱明日香

武田薬品工業 ジャパン ファーマ ビジネス ユニット プレジデント

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ベリさんの故郷、東ヌサトゥンガラ・フローレス島のイカット。

地域や民族により多様な柄が存在している。

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初めての海外赴任地は、インドネシアだった。ここは約300の民族が暮らし、独自の文化や言語をもつ多様性に富んだ国。私の約2年間の駐在時にタケダインドネシアのオンコロジー事業のトップだったベリ・ロドリゲスさんは、まさに多様性に寛容な人だった。異文化のなかで戸惑う私を温かい人柄で包み込み、サポートしてくれた。同国には、「ティダ アパアパ」という小さなミスやトラブルに対し寛大な態度を示す言葉がある。新規事業を立ち上げるなかで困難や失敗に見舞われたとき、私たちは「ティダ アパアパ」と声 をかけ合い、課題をいくつもクリアしていった。

そんな彼が私の異動に際し贈ってくれたのが、「イカット」だ。インドネシア伝統のかすりの織物で、これを織ることで多様な民族は基層文化を育んできたという。思えば私たちも、国は違えど革新的な薬を届けるという使命でつながっていた。イカットを見ると、彼の前向きな思考や多様な人材を受け入れる姿を思い出し、この経験こそがギフトであったとあらためて思う。

ベリさんは、コロナ禍に永眠した。だが、今でも天国から「ティダ アパアパ」と微笑み、見守ってくれている気がするのだ。


みやばしら・あすか◎九州大学大学院で農学における修士号取得後、2004年武田薬品工業に入社。MRとして活躍後、インドネシアおよびベトナムへ事業運営責任者として赴任。国外・国内で重要な役職を務め、24年にジャパン ファーマ ビジネス ユニット プレジデント就任。日本製薬工業協会会長も務める。

文=伊藤美玲 イラスト=東海林巨樹

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