ドイツの首都ベルリンで9月5日から10日までの6日間にわたり開催されたエレクトロニクスショー「IFA 2025」は、コロナ禍を経て再びかつての勢いを取り戻し、世界のエレクトロニクス市場の現状と未来のトレンドを明快に映し出した。筆者は今年もIFAを現地で取材した。イベントの推進力となったのは、生活家電にも深く浸透しつつある「AIの台頭」だった。
2025年のキーワードは「AI」と「中国」
IFA Management社のCEOを務めるライフ・リントナー氏は、ベルリンに集まった日本の記者によるグループインタビューに応じ、「2025年のIFAの手応え」と「エレクトロニクス市場のグローバルトレンド」について2つの重要な洞察を語った。
1つは、AI技術がIT分野だけでなく、冷蔵庫や洗濯機といった一般の生活者が日々使うコンシューマーエレクトロニクス製品やサービスに深く根を張りつつあるという点だ。リントナー氏は、AIテクノロジーはもはや未来のものではなく、「今ここにあるもの」であると強調している。何より、会場を埋め尽くすコンシューマ向け家電製品の展示が「AIづくし」であったことがその証左となった。
もう1つ明らかだったのは、中国系エレクトロニクス企業の目覚ましい勢いだ。2025年のIFAには1900社を超える企業が出展したが、筆者が会場を歩き回って得た感覚では、ハイセンス、TCL、ハイアール、アンカーといった大手ブランドから小規模なスタートアップまで含め、出展社のおよそ4割近くが中国系企業だったと思う。
これら中国のエレクトロニクス企業は、自社の製品やサービスに最新のAIテクノロジーを搭載することにも積極的だ。例えばテレビにはAIにより画像・サウンドをリアルタイムに解析しながらそれぞれのクオリティを高める機能が、上位モデルを中心に当たり前のように搭載されている。冷蔵庫は庫内にある食材を識別して食事の献立を提案したり、洗濯機は投入した衣類の種類、生地の素材に合わせて最適な洗い方コースを自動で選択してくれたり、といったことをAIが担う。
同様のAI機能を搭載することについて、日本のエレクトロニクスメーカーは後れを取っているわけではなく、むしろ先行して取り組んできたものも少なくない。だが昨今の「AIブーム」の中、グローバルイベントでAI家電のリーダーシップを宣言することは、企業間における今後の競争を勝ち抜くために大きな意味がある。IFAには毎年、欧州を代表する大手エレクトロニクス小売業者から多くのトレードビジターが集まる。今年は彼らの頭に「AI家電の革新をリードする中国メーカー」という強い印象が刻まれたはずだ。
サムスンが生成AIエージェント搭載のテレビを発表
筆者は今年のIFA取材開始時、「生成AI」技術が生活家電の領域にも浸透し始めるだろうと予想していた。実際、2024年のIFAでは韓国の大手企業であるサムスンとLGが生成AI搭載の生活家電で先陣を切っていたが、1年が経って、各社の進んだ方向が少なからず異なっていた。
サムスン電子は、日本でも発売されているGalaxyシリーズのスマートフォンに、独自開発の生成AIプラットフォーム「Galaxy AI」を搭載し、いち早く商用化を実現している。同社は半導体の設計・製造まで自社で行える強みを持っている。その強みを活かして、生活家電にも最適なAIチップセットを投入して、他社に先駆けたチャレンジができる。



