大手シーメンスもAI対応の生活家電に積極的
ドイツの総合家電メーカーであるシーメンスは、日本では産業オートメーションやスマートインフラ、エネルギー関連の事業を展開する企業として知られている。ところがヨーロッパではトップクラスの人気を誇る生活家電のメーカーでもあるのだ。正確に言うと、シーメンスとボッシュが1970年代にそれぞれの生活家電部門を統合して設立したBSH社(Bosh Siemens Hausgeraete)が商品を設計・開発している。
BSHは、ヨーロッパでは2010年代の前半頃からモバイルアプリ「HomeConnect」で操作・設定ができるスマート家電に力を入れてきた。同年代後半にグーグルやアマゾンのスマートスピーカーが台頭してきた頃には、音声操作でスマート家電をユーザーの代わりに操作するAIエージェントロボットも試作してIFAで見せた。
シーメンス本社でHomeConnect部門のスマート家電事業を統括するシュテファニー・リップス氏は、筆者のインタビューに答えて、現在同社が生成AIをスマート家電と連携させることにも積極的に取り組んでいると語った。ただし、冷蔵庫や洗濯機、オーブンと会話しながら操作する段階にはまだ至っておらず、「そのような使い方が本当にユーザーに求められているものかを深く検討している」という。それよりも先に、HomeConnectアプリにAIエージェント機能を載せて、ユーザーのトラブルシューティングを提供するAI機能を間もなくソフトウェアアップデートにより提供するという。BSHの家電を選んだ、すべてのユーザーが「役立つAIエージェント」を体験できることには大きな意味がある。
AIとロボット、脚光を浴びた欧州企業
IFAには、ヨーロッパの勢いある新興企業も出展している。その出展社数はコロナ禍直後の2023年に一時減少したが、今年は再び勢いを取り戻しつつあった。IFA Managementのリントナー氏も、中国企業だけでなく、欧州やその他の国・地域からの出展社が増え、全体として展示の内容に多様性がもたらせたことに自信を深めている様子だった。
筆者は、今回のIFAに出展した2社の欧州スタートアップ企業に注目した。
1つはイタリアのスタートアップ、VISUP Srlだ。同社は複数のAIモデルを組み合わせ、スマート家電に生成AIエージェントの機能を「外付けできる」カスタムソフトウェアを今年のIFAで披露した。
ブースでは、同じイタリア・ミラノの家電メーカー、La Cimbaliのモバイルアプリから操作できるスマート“エスプレッソマシン”に最適化した「外付けAIエージェント」のデモンストレーションを筆者も体験した。同社がthings5.というブランドで提供する生成AIエージェント開発のためのプラットフォーム「Genuin」を活用している。Genuinを導入すれば、家電メーカーの開発者がノーコードでAIエージェントをつくりこみ、モバイルアプリに組み込める。
IFAのデモでは「ミルクを使わないシンプルなコーヒーが飲みたい。味は深煎りっぽい濃いめが好み」と、AIエージェントに話しかけると、エスプレッソマシンがレシピや設定をオーダーに合わせて作ったコーヒーを楽しむことができた。コーヒーショップのスタッフと会話するような感覚で家電が動かせる。


