第1次トランプ米政権が2019年初め、海軍特殊部隊(SEALS)を北朝鮮に上陸させて通信傍受の機器を設置する秘密の作戦を試み失敗していたと、米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)が5日報じた。金正恩総書記の通信を傍受するのが目的だったという。同紙は隊員が北朝鮮の小型ボートに気づき、発見を恐れて発砲、非武装の数人を殺害する結果になったと伝えた。同紙は当時の米当局者や軍関係者ら20人以上への取材結果として報じたという。作戦を承認したと報じられたトランプ大統領は5日、ホワイトハウスで記者団から報道について問われ、「私は何も知らない。初めて聞いた」などと答えた。
記事には作戦遂行の様子が、微に入り細に入り描かれている。「20人以上の取材結果」としており、検証にも十分な自信を持っていることが伺える。自衛隊の情報本部勤務経験者や米留学経験者、韓国の情報機関、国家情報院の元高官、2019年当時に米朝協議に参加していた米政府元当局者らに、記事の感想を求めた。日米韓の元当局者らの反応は「SEALSの能力として北朝鮮への潜入は可能だが、少なくない疑問が浮かぶ」というものだった。
SEALSは2017年3月や同年10月の米韓合同軍事演習に参加した経験がある。米韓関係筋によれば、SEALSは米空母に乗船して移動していた。同月には、特殊部隊の居住区画や侵入用の特殊潜航艇を持つオハイオ級原子力潜水艦ミシガンが釜山港に入港。SEALSは当時、洋上で空母が艦載するヘリやミシガンに乗り移り、北朝鮮に侵入する演習を行っているとみられていた。
ただ、SEALSの訓練の目的は、北朝鮮の施設の破壊や金正恩氏ら幹部の暗殺工作だったとされた。米政府元当局者は「SEALSの得意分野は暗殺や破壊だ。通信傍受の機器の設置なら、グリーンベレー(米陸軍特殊部隊群)やCIA(米中央情報局)の工作担当者の方が適任だと思う」と語る。
複数の自衛隊元幹部は、「通信傍受機器の設置」について「そんな作戦が本当に可能だろうか」と口をそろえる。北朝鮮は通信傍受を恐れ、近年は軍事基地間の連絡も無線に代わって光ファイバーを使っている。暗殺を恐れている金正恩氏が簡単に携帯電話や無線を使うとは考えにくい。元幹部の一人は「通信傍受をやるなら、ケーブル(電話線)に接続する必要がある」と語る。別の元幹部は「ケーブルに接続できたとしても、通信傍受機器からの情報を米国はどうやって入手するのだろう。機器から電波が出れば、即座に北朝鮮にわかってしまう」と話す。仮に電波を出さず、一定期間経ってから機器を回収することを考えたとしても、北朝鮮は定期的に重要な設備を点検しているので、すぐに発見されてしまうだろう。



