ニッカウヰスキー創業90周年を記念して、2024年10月に発売されたウイスキーブランド「ニッカ フロンティア」。創業から一貫して重視してきたのが、スコットランドからウイスキーづくりの技術と精神を持ち帰った創業者・竹鶴政孝に象徴されるフロンティアスピリットだ。
本連載は、「ニッカ フロンティア」にも受け継がれたフロンティアスピリットに共鳴する人物にインタビュー。困難に立ち向かい、新たな道を切り拓いてきたパイオニアは、どのような熱き思いを秘めているのだろうか。
第1回は、1食で1日に必要な栄養素の1/3が摂取できる「完全栄養食」を開発・販売する、ベースフード代表取締役の橋本舜が登場。「手作り」「家庭の味」といった伝統的価値観が強く残る食品業界において、科学的アプローチを用いた新たなカテゴリーを生み出すまでの道のりについて聞いた。
「本格的」でありながら、「多くの人に受け入れられる」味わいを目指したニッカ フロンティアの挑戦
一大ブームから定番となったハイボールに代表されるように、現代のアルコール飲料においては「飲みやすさ」「口当たりの軽さ」がヒット商品のキーワードとなっている。
その文脈においては、「ニッカ フロンティア」が目指したのは、多くの人が受け入れられる味わいでありながら、本格的な中味を目指した。ここには大きな困難への挑戦があった。瓶詰め前に割り水をし、アルコール度数を40%程度にまで下げることが多いウイスキー。
しかし「ニッカ フロンティア」は割り水が比較的少なく、アルコール度数は48%と高め。骨太な飲みごたえやハイボールにしても割り負けない存在感がある。また、余市のヘビーピートモルトをキーモルトに採用し、モルト比率を51%以上とするなど、中味や製法は本格ウイスキーそのものである。
しかし、目指しているのは多くの人に受け入れられること。ヘビーピートモルトへのこだわりはありながら、強烈なスモーキーフレーバーにはせず、高いアルコール度数でありながら、心地よさを感じられることが条件であった。0.5%以下のブレンド比率の調整を何度も重ね、「本格的」でありながら、「多くの人に受け入れられる」味わいを実現した。
そんな「ニッカ フロンティア」の風味や味わいを堪能できるのが、ウイスキーを炭酸水に浮かべた「フロートハイボール」という飲み方だ。ウイスキーと水では比重が異なるため混ざりきることがなく、見た目も味わいもグラデーションが楽しめる。一口目はストレート、次にロック、次第にハイボールの味わいになるのだ。

橋本も、取材にあたって初めてフロートハイボールを試した。「ニッカフロンティアはアルコール度数が高いにもかかわらず、フルーティー。でも同時に存在感がある。フロートハイボールは初体験ですが、ひとつのグラスの中で味わいの変化を楽しめるのは、ユニークです。一口目でウイスキー本来の風味を確かに感じられます」と語る。
橋本の目に留まったのは味だけではない。ニッカウヰスキーのイニシャル「N」を大きくあしらい、ウイスキーの色が全面に見えるボトルデザインにも興味をひかれたようだ。
「これまでありそうでなかったシンプルなデザインであるがゆえに、本腰を入れてこの商品が作られていることを感じます。私たちベースフードも、シンプルさを意識しています。一方で、伝えることを絞ると、相手の解釈が入るのでメッセージが意図通りに伝わらなくなるリスクが伴います。勇気が要る決断ですよね」
食品業界に身を置く挑戦者だからこそ、近しい領域である「ニッカ フロンティア」がもつメッセージの分析にも余念がない。挑戦者・橋本の特徴はこの冷静な分析力にある。
科学的アプローチを取りながらも届けたいのは「おいしさ」と「健康」
橋本は大学卒業後、DeNAで複数の新規事業立ち上げを経験し、2016年にベースフードを創業した。
創業の理由は、少子高齢化による社会保障費の増大という社会課題を解決したかったからだという。そのために「完全栄養食」の開発というアプローチを選んだのは、最もインパクトが大きい方法を考えたときに、主食の栄養バランスを整えるのが最善だという答えにたどり着いたからだ。
人々の健康を守るために治療の分野は発達しているものの、予防の4項目「食事」「睡眠」「健康診断受診率」「運動」においては、まだまだ改善の余地がある。特に食事においては、現代の生活スタイルでは栄養バランスがすぐれている一汁三菜の献立を毎日作って食べることは難しい。そこで、主食に主菜と副菜の栄養素を組み込めれば、この問題は解決すると考えた。
こうして、橋本はまったく未経験だった食品製造業へ飛び込んだ。起業して一年間はたった一人で、知人に専門家を紹介してもらいながら商品を開発。100回以上の試作をつくるなど、試行錯誤が続いた。
「孤独なら耐えられなかったかもしれない」という橋本。しかし「完全栄養食を作りたい」という橋本の思いに賛同する仲間も創業初期から多かったという。「面白いプロジェクトをやっていると、経済合理性を超えて関わりたいと思う人が集まってくるものです。栄養士や大学の先生、後に取引先になった企業など、さまざまな方が協力してくれました」
「BASE FOOD」ブランドのパンやパスタは当初、健康志向が高い層にフィット。事業は大きく成長し、自社通販(サブスクリプション)だけでなく大手コンビニ3社にも販路を拡大するなど、多くの層に受け入れられている。いまや科学的アプローチを取り入れる「フードテック」企業としても注目を集めている。
自社通販でもリテールでも重視したのは、その価値をしっかり伝えること。「BASE FOOD」ブランドのパンやパスタは栄養バランスに優れた主食であり、それを食べるのは自分にとっても社会にとってもよいことだと伝え続けた。
「手作り」「家庭の味」など、食文化においては伝統的価値観が根強く残る。しかし、橋本は「当社は真新しいことをやっているわけではない」という。
「我々は科学的アプローチにこだわって完全栄養食を製造・販売していますが、それをダイレクトにお客さまに伝えているわけではありません。『バランスのいい栄養素が摂れて、なおかつおいしい』というお客様が得られる価値を訴求しているのです。お酒やハムなど他の食品も、もともとは家庭内手工業のような形で文化や技法が受け継がれてきたもの。現代では、より多くの人が安全でおいしく食べられるよう、科学技術を用いて工業化されています。そういった意味では、従来の食品と『BASE FOOD』ブランドの商品も同じような発展をたどっていると考えています」
自分の役割を担いながら挑戦を続ける
「完全栄養食」という未知なる食品を生み出し、いまや市場も味方につけた橋本。前例がないことに挑むのは苦労がつきものだが、自身は「インパクトの大きいことをやるなら、同じぐらい大きな苦境は必ず訪れるもの」と冷静に捉える。
商品開発が思うように進まなくとも、創業期は失敗しても失うものは少ないと、チャレンジを続けることだけを考えていたという。事業が大きくなり、ステークホルダーが増えたいまは、大手企業がこだわりを持ってやってきた伝統を受け止め、守りの側面にも目配せをしながら会社経営をするようになったと言う。
橋本は、自身の活動指針に「一番大変なことに挑む」を掲げる。「勝ち馬に乗り、成功しそうなことをやる方が経済的メリットは大きいかもしれないが、解決したい課題に向き合いたい」と語る。合理的かつ客観的に物事を捉える冷静さと、困難に挑む静かな情熱が混じり合うのが、橋本舜のフロンティアスピリットなのだ。
このスピリットの原点には、橋本の原体験も関係しているという。両親やきょうだいはクリエイタータイプであり、自分だけがロジカルな問題解決力を武器にしてきたという自覚がある。「私は、クリエイティブな世界では生きていけない。それでも世の中をよりよい方向に変えていかなければなりません。その中で、自分ならではの立ち位置で向き合っていきたい」
今はまだ、「主食をイノベーションし、健康をあたりまえに。」というベースフードのミッションに向けて道半ばだ。「完全栄養食」が特別な分野ではなく、普通の食品カテゴリーのひとつにしていきたい、と橋本は未来を見据える。フロンティアスピリットあふれる起業家の未知なる分野への挑戦は、これからも続く。
「起業家は任期や定年があるわけではない。竹鶴政孝が一生をかけてウイスキーに向き合ったように、私も誰かにバトンを渡す日までチャレンジは続けます」
「ニッカ フロンティア」は、ニッカウヰスキー創業90周年を機に、創業者・竹鶴政孝のフロンティアスピリットを継承してつくり上げられた商品。特徴的な製法によって、マーマレードを思わせるフルーティーさと、心地よいスモーキーさが際立つ香り、コクのある飲み口、甘さが続く余韻を実現した。
推奨する飲み方は、フロートハイボール。「ニッカ フロンティア」の薫り高さを感じながら、ロックやハイボールへと味わいが変化していく楽しみが得られる。
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