AI導入は、なぜ生産性のパラドックスを生み出すのか?
AIは、仕事を楽にするものであるはずだ。にもかかわらず、AIの使い方を習得するよりも、人力でタスクをこなした方が速いことはしばしばあると、多くの社員が認めている。
筆者がかつて、製薬会社の営業部門に勤めていたとき、同じような状況を目の当たりにした。営業部の社員は、コンピューターにデータを入力する手間を惜しみ、紙とペンを使い続けていた。今になって振り返れば、コンピューターの方が効率的であるのは明らかだが、当時の社員はそう思っていなかった。
ほとんどの社員は、AI導入で生産性は向上し得ると考えている。一方で、プロンプトを理解し、なじみのないプロセスに慣れるまでには、かなりの時間が必要かもしれない。こうしたギャップのことを、バーンスタインは「生産性のパラドックス」と呼ぶ。
バーンスタインは、社員がAIを「試しに」使ってみる機会を設けることを勧めている。例えば、AIを使った問題解決を競い合う「ハッカソン」を開催するといったことだ。
リーダーは、導入当初の結果が玉石混交になることを覚悟すべきだ。この段階では、社員がどの部分で最も支援を必要としているかが判明するかもしれない。一方、ここでの戸惑いは、好奇心を高めるようにも作用する。このとき試行錯誤が奨励される環境があれば、自学自習につながる可能性がある。
こうしたマインドセットの切り替えこそが、生産性を高めるブレークスルーを可能にする。
不安とストレスがAI導入を妨げる
社員の約半数は、AIが自分の仕事に与える影響を心配しており、とりわけZ世代は強いストレスを感じていた。若い社員の多くが、準備不足とみなされることを恐れ、会議で知ったかぶりをしていると告白した。
不安は、好奇心を抑え込む主要因の1つだ。そして、人々が不安のために声を上げられずにいると、イノベーションの道は閉ざされる。
リーダーは、AIに何ができて、何ができないかを、明確に把握しておく必要がある。AIは、社員に取って代わるものではなく、社員を雑務から解放し、より戦略的に重要な仕事に取り組めるようにするものであると、積極的に発信すべきだ。こうした取り組みは、社員の心理的安全性を高め、不安を解消するのに役立つ。
ウォークミーでは、社員の好奇心に高い価値が置かれている。成長のマインドセットを示した社員は表彰の対象となり、特にパフォーマンスが高ければボーナスを受け取ることもある。こうしたアクションは、好奇心が評価されることを示す。
社員たちの不安に対処しないかぎり、彼らは、自分がベストだと思うやり方を密かに続け、結果的に、企業が不利益を被るおそれがある。社員は、実際にしていることを隠したり、AIを全面的に避けたりするかもしれない。
透明性を高め、安心できる環境づくりに努めないかぎり、関係者全員にとって最も有益な製品の導入を、社員が拒むおそれがあるのだ。


