AI導入の試みの95%は失敗に終わる――そんな調査結果を聞けば、この技術そのものに問題があると考えたくなるのはもっともだ。だが、たいていの場合、失敗の原因はソフトウェアよりも人にある。
SAP傘下の企業で、デジタルアダプション・プラットフォームのパイオニアであるWalkMe(ウォークミー)は8月27日、職場における従業員たちのAI利用の実態に関する調査結果を発表した。この調査から、人々は概してこうしたツールの活用に前向きであること、一方で、多くの人々は十分に準備ができておらず、また支援が足りていないと感じており、技術をオープンに受け入れることに不安を覚えていることがわかった。こうしたギャップのために、企業は莫大な投資から得られるはずだった見返りを失い、チャンスを棒に振っている。
ウォークミーで最高人事責任者を務めるシャロン・バーンスタインはインタビューのなかで、問題は、あまりに多くの企業が、転換にばかりフォーカスして、導入の段階をおろそかにしていることだと語った。バーンスタインは、この2つの段階の違いについて、次のように説明する。「転換が戦略を定めることだとすれば、導入は結果を出すことだ」。
上層部のリーダーが戦略を定めても、こうした戦略で示された期待に従業員がどのように応えるべきかが具体的に示されないかぎり、望み通りの結果は得られない。
AI導入の職位格差を生み出す要因とは?
ウォークミーの調査によれば、社員の大部分は、AI研修をほとんど受けていないか、ある程度の研修を受けているだけだったのに対し、幹部社員には、必要な研修へのアクセスが潤沢に用意されていた。一般社員は自力で事態を解決しなければならないのに対し、リーダーは必要に応じてリソースを活用できるというこのような職位格差は、不満や不平等につながりかねない。
研修を受けられない場合、社員は、俗に「シャドーAI」と呼ばれるものに頼る。社内での利用が認められていない、ChatGPTなどの外部ツールを利用するのだ。
企業は、社内用AIプログラムに多大な投資を行うことがあり、またその多くは、社員が、社外の製品よりも社内用プログラムを優先的に使うことを望んでいる──社員が作成する成果物の信頼性を保証し、意図せず社外秘の情報を漏洩することを避けるためだ。一方で、多くの社員が、外部ツールを利用していることを認めている。なかには、ウィンドウを2つ開いて、片方では社内で承認されたツールを、もう片方ではChatGPTを使い、コンプライアンス順守を装う社員さえいる。
誰もが必要な研修を受けられるようにするために、企業には何ができるだろうか? バーンスタインは、好奇心がソリューションの核心であると強調する。不安を覚えることなく質問し、試行錯誤できる環境があれば、社員は、1度きりの研修では得られないような学びを得ることができる。リーダーがこうした側面をおろそかにしてしまえば、社員は、AIプログラムの利用法を理解しているふりを続け、やがて組織全体が競争から取り残されてしまうだろう。



