「ココナッツウォーター」と聞いて、巨大なビジネスチャンスを想像する日本人は少ない。日本ではニッチな飲料の1つにすぎず、なじみの薄さを感じる人もいるだろう。一方で健康志向の強い米国ではすでに一大市場が形成され、その流れは中国にも広がっている。この潮流をとらえたタイ企業は中国市場でシェアNo.1を獲得し株式上場を果たした。なぜ彼らは成功できたのか。本稿では、このアジア企業の成功事例を紐解き、海外の消費トレンドを捉える上でのヒントを探る。
創業者ポンサコン・ポンサック――タイの味を世界へ届ける事業を発案
タイで育ったポンサコン・ポンサックが子どもの頃から好きだった清涼飲料は、新鮮なココナッツウォーターだった。街の屋台でおなじみのこの飲み物は、熱帯地方で豊富に採れる若く青いココナッツを原料としている。しかし、大人になって海外を旅すると、故郷の味を見つけることはできなかった。この経験から、母国のココナッツウォーターを海外市場向けにパッケージ化する事業を思い立った。
「タイのココナッツは香りが豊かだ。いいものをそのまま世界に届けようと思った」と、General Beverageの創業者である45歳のポンサコンは、バンコク本社からのビデオインタビューで語った。彼は、12年前に立ち上げた「IF」ブランドのココナッツウォーターを、自身がCEOを務める子会社のIFBH(Innovative Food and Beveragesの頭字語)を通じて海外で展開している。
自社ブランドIFが中国市場シェア3分の1以上を獲得
IFは現在、同社にとって最大の市場である中国でトップのブランドに成長した。上海の調査会社China Insights Industry Consultancyによれば、IFBHの中国での市場シェアは2つの製品で3分の1以上に達しており、IFが28%で、従来型のスポーツドリンクに代わる健康的な飲料をうたうココナッツウォーターの「イノココ」が6%を占めている。両ブランドは十数社と競合している。その中には、同社と同じくタイからココナッツウォーターを輸入し、市場シェア5%弱を占める中国ブランド「Delgarden」などが含まれる。中国の「Qingshang Drink」や米国の「Vita Coco」、タイの飲料大手マリー・グループの「Malee Coco」などがライバルだ。
ポンサコンは、今後もIFが中国でトップの地位を守れることに自信を示している。「今ではココナッツウォーターといえば真っ先にIFの名前を思い出すような状況だ。この存在感を維持したい」と彼は語る。
2024年のIFBHの売上高は前年比80%増の1億5800万ドル(約232億円。1ドル=147円換算)に拡大した。純利益もほぼ2倍の3300万ドル(約49億円)だ。同社は売上高の急増について、昨年の売上高の97%を占めた中国市場での旺盛な需要が支えたと説明している。ポンサコンが91%を保有する同社の親会社である非上場企業General Beverageは、タイ商務省への提出書類によれば、同期間に35億バーツ(約175億円。1バーツ=5円換算)の売上高と1億100万バーツの純利益を計上していた。


