香港での試験販売からEC主軸で中国本土へ進出
ポンサコンは新たな挑戦にあたり、中国市場での経験が生かせると考えている。ユーロモニターによれば、中国は米国、ブラジルに次ぐ世界第3位のココナッツウォーター市場だ。彼はIFの中国での成功が「適切なタイミングで適切な場所に参入できたからだ」と語る。IFは2015年にまず香港でコンビニやスーパーを通じて販売を始め、市場の反応を探った。そこで一定の成果を得ると、2年後に中国本土へと進出したが、そこではアリババの天猫(Tmall)や京東(JD.com)などでのオンライン販売を優先し、世界最大規模のEコマースの顧客層にアピールした。
人気の中国人俳優を起用など若者向け広告を展開
ポンサコンはまた、中国ではタイ料理への親近感が追い風になったと話す。その結果、ジャスミンライス味のココナッツウォーターやマンゴー・スティッキーライス味のココナッツミルクといった派生商品も誕生した。さらにIFBHは若年層を狙ったマーケティングにも力を入れ、中国の人気俳優で歌手のシャオ・ジャンをグローバルブランドアンバサダーに起用して、成都の58階建てタワーの外壁のLEDスクリーンで、彼がボトルを飲み干すCMを放映した。また、深センのウォーターフロントの公園には、巨大な青いココナッツやIFのボトルの彫刻を設置している。
製造は外部委託――品質管理を徹底するアセットライト経営
ポンサコンはIFBHの強みとして、製造を外部に委託するアセットライト型のビジネスモデルを挙げている。同社は原料の調達からボトリング、流通までをGeneral Beverageや他の11社に委託し、厳格な品質管理体制を敷いている。例えば今年4月までは親会社General Beverageが唯一の供給元で、選定農家に仕入れを委託していた。この農家には酸化や汚染を防ぐための厳しいガイドラインが課されていた。
今後の2年間でIFBHは調達先の多様化を進め、General Beverageからの仕入れ比率を全体の半分以下に抑える計画だ。「私たちのビジネスモデルには、他社が模倣できない部分が数多くある。サプライチェーンとの間で築いてきた関係や、消費者との間に築き上げたブランド力などがその1例だ」とポンサコンは語る。
ユーロモニターのリムも、このモデルによってIFBHがマーケティングに集中でき、同業他社を上回る「加速的な成長」を遂げてきたと認める。また、CLSAは今後2年間で同社の売上高が年率30%のペースで増加すると予測している。同社のシェンは、中国のココナッツウォーター市場はまだ十分に開拓されておらず、IFBHが中国での首位を維持する可能性が高いと見ている。彼女は、IFBHの製品のECプラットフォーム上での顧客評価が「平均以上」で、高品質かつ手ごろな価格で支持を集めている点を指摘した。
創業者ポンサコンの経歴――MBA取得後に家業を離れ起業
ポンサコンは、いくつかの別の事業を経て飲料分野に乗り込んだ。ウィスコンシン大学ホワイトウォーター校で経営学を学んだ彼は、2004年に自身の家族が経営する繊維や不動産を手がけるスワン・グループに入社した。最初はその1社でマーケティングマネジャーを務めた彼はその後、バンコク近郊にある一族が経営するゴルフ場のマネジングディレクターに任命された。
ニューヨーク工科大学でMBA課程を履修していた2010年、彼は起業の構想を固める。米国のスーパーに並ぶ多様な飲料ブランドを目にし、飲料事業に可能性を見いだしたのだ。帰国後の2011年に彼はGeneral Beverageを設立し、フルーツジュースの製造を開始。2年後にアロエを加えたブドウジュースで市場参入を果たした。2015年にはココナッツウォーターに軸足を移し、その後は「Vitaday」ブランドのビタミンウォーターを投入した。このブランドは現在もGeneral Beverage傘下でタイ国内で販売されている。
新型コロナウイルスのパンデミック期、健康飲料への需要が急増したことで、General Beverageは供給体制の拡大に苦慮した。これを受けてポンサコンは2023年に国際事業を分離し、IFBHを設立。さらに生産基盤を広げるため複数の委託製造業者を取り込んだ。
依存度98%からの脱却、M&Aに約38億円を投資
ポンサコンは今後の事業について、売上高の約98%を占めるココナッツウォーター依存から脱却し、事業ポートフォリオを多様化する方針を示している。同社の残りの約2%の売上は、フルーツジュースやタイミルクティーなどの飲料、さらにココナッツのクリスプロールやキヌアチップス、天日干しバナナなどの植物由来のスナックからのものだ。IFBHは新たな飲料の投入に加え、アジアや米国、オーストラリアで健康飲料や植物由来スナック、代替タンパク製品を手がける企業の買収に向けて2600万ドル(約38億円)を投じる計画だ。
「ココナッツウォーターは今でこそニッチな存在だが、オレンジジュース並みに大きな市場になる可能性がある」とVita Cocoの共同創業者マイケル・カーバンがかつてフォーブスに語ったように、ポンサコンもこの飲料を主力に据え続ける考えだ。なぜなら、その試みは、子どもの頃に愛した味を世界に届けたいという自身の思いと重なるからだ。
「私は1度本気で取り組むと決めれば、全力を注ぐタイプなんだ。引き返すことはしない」とポンサコンは語った。


