アジア

2025.09.10 08:00

中国で売上232億円、タイ発「ココナッツウォーター」企業が米国に進出

samritk / Shutterstock.com

香港証券取引所への上場で約226億円の資金を調達

中国での成功に自信を深めたポンサコン・ポンサックは、さらなる拡大に乗り出している。6月に彼は、IFBHを香港証券取引所に上場し、1億4500万ドル(約210億円)を調達した。この新規株式公開(IPO)には、複数の著名なコーナーストーン投資家が名を連ねた。例えば、タイの大手財閥CPグループのスパチャイ・チャラワノン会長が支援する投資ファンド「Black Dragon」、紅杉中国(旧セコイア・チャイナ)傘下のHCEPマネージメント、UBSアセットマネジメントが含まれる。

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「IFBHは、企業としての実行力に加えて、明確な戦略や消費者嗜好への深い理解、そしてタイ原産のココナッツの優位性を生かして世界で競争力のあるブランドを築く力が際立っている」と、IPO前の投資を担当したシンガポールの政府系ファンド「テマセク」傘下のFullerton Fund Managementのプライベートエクイティ部門ディレクターのアニサ・キラティウォラナンはEメールで次のようにコメントした。

ポンサコンは今もIFBHの60%の株式を保有しており、その評価額は7億ドル(約1029億円)に達している。これにより彼は、フォーブスが発表したタイの50人の富豪の仲間入りを果たした(今年のタイの長者番付入りに必要な最低資産は4億2000万ドル[約617億円]だった)。だが、これほどの資産を築いた今も、ポンサコンの事業への意欲は衰えていない。彼はIPOで得た資金の一部を活用して中国以外の市場にブランドを広げる計画だ。

ポンサコンの野心は、時流をとらえているように見える。消消費者の健康志向が高まるなか、ココナッツウォーターを含む植物由来飲料は世界の清涼飲料市場(約161.7兆円)で最も急成長する分野の1つだ。英調査会社ユーロモニターによれば、このカテゴリの小売売上高は2018年から2024年にかけて年平均10%以上で成長し40億ドル(約5880億円)に達した。成長率は同期間の清涼飲料全体の6.6%を上回っている。天然の電解質を多く含むココナッツウォーターは、ペプシコの「ゲータレード」などのスポーツドリンクに代わる低糖分の水分補給飲料として人気を集めている。

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この成長市場を捉えるべく、ポンサコンはまず、IFがまだ存在感を示せていない米国とオーストラリアで足場を築こうとしている。この2国が同ブランドの2024年の売上高の1億5800万ドル(約232億円)に占めた割合はごくわずかだった。ユーロモニターで飲料インサイトを担当するシンガポール拠点のナタナエル・リムは「中国以外への拡大構想は、IFBHがグローバルブランドを目指していることを示している」と語る。

次の目標は世界最大市場――VitaCocoが待つ米国

ポンサコンは、2024年の小売売上高が14億ドル(約2058億円)を記録した世界最大のココナッツウォーター市場である米国に「巨大なチャンスがある」と考えている。一方、IFBHがタイからの輸入品に課される米国の19%の関税への対応策を明らかにしていない中で、香港の証券会社CLSAのアナリストで、同社のIPOの幹事も務めたエルシー・シェンは「成熟市場への参入は大きな可能性を秘めているが、難しい挑戦でもある」と指摘する。米国市場で強固な地位を築いているプレーヤーとしては、マドンナやデミ・ムーアなどの著名人が出資し、中南米やアジアから原料を調達している「Vita Coco」が挙げられる。

Vita Cocoの支配的な地位はこれまで、コカ・コーラやペプシコなどの飲料大手の攻勢を受けても揺るいでいない。コカ・コーラは2013年に、当時米国第2位のブランドだった「Zico」を買収したが、売上の低迷を受けて7年後に創業者に売り戻していた。ペプシコは一時、「O.N.E.」という米国第3位のブランドを擁していたが、2021年にジュース事業の一部を売却し、ブラジル産のココナッツウォーターブランド「Kero Coco」のみを残している。

ユーロモニターのリムは、米国のスーパーマーケットの棚を確保するためには、適切な流通パートナーを見つけることが不可欠だと述べている。彼はまた、現状でほぼすべての製品をタイから輸入し、ごく一部をベトナムから調達しているIFBHが、サプライチェーンの混乱を避けるためにも調達先を多様化すべきだと指摘する。

これに対しポンサコンは、IFBHが事業拡大にあわせて東南アジアの他国からの調達も検討する可能性はあるとしながらも、当面はタイを主力のサプライヤーにすると述べている。Vita Cocoは、ブラジルやスリランカ、タイを含む東南アジアの各国から原料を仕入れているが、ポンサコンは「競合との差別化を図るためにも、タイの味を世界に届けたい」と主張する。将来的に彼は、米国やオーストラリアで現地の嗜好に合わせた新たな飲料を投入する計画だが、詳細を語るのはまだ早いと述べている。

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翻訳=上田裕資

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