英国の作家オスカー・ワイルドの喜劇『The Importance of Being Earnest(真面目が肝心)』に出てくる「片方の親を失うのは不運と言えるでしょうが、両親をともに失うとなると本人の不注意に見えてしまいますよ」という一節は、政治に当てはめてみることもできる。とりわけ、フランスの「真面目」なエマニュエル・マクロン大統領によく当てはまる。フランソワ・バイル首相は8日に国民議会(下院)で内閣を信任投票にかけることにしていて、その結果、マクロンはこの1年8カ月で4人目の首相を失うおそれがあるのだ。
信任投票は否決されてバイル内閣は総辞職に追い込まれる公算が大きい。そうなれば再び無力な連立内閣が組まれるか、あるいは解散・総選挙になる可能性がある。いずれにせよ当面のリスクは、マリーヌ・ルペンが実質的に率いる極右政党「国民連合(RN)」、債券市場、フランス国家という3者間のあつれきだ。
バイル内閣の崩壊は、マクロン政権(“マクロニー”)の事実上の終わりを告げる出来事になるのはほぼ間違いない。マクロンは大統領の職にはあっても、もはや政治的な影響力を失った状態になるという意味だ。世論調査によれば、こうした結果になっても後悔したり、反発したりするフランス国民は少なそうだ。
本来、フランスはこんな状況に陥るはずではなかった。近隣諸国と比べても、フランスの公共サービスや交通機関、教育制度は概して優秀だ。マクロンは民間投資とテクノロジー部門を目に見えて活性化させてきたし、経済成長は少なくとも英国やドイツよりはましだったと言える。同等あるいは競合する国々と比較すると、フランスは住みやすく、生活費も手ごろなほうだ。
しかし、マクロン政権下で、フランスは財政面で危機に瀕することになった。移民とアイデンティティーの問題は依然として社会をきしませ、それを背景にRNは議会で単一の政党としては最多の議席を握るまでに伸長した。外交政策の面では、フランスはアフリカや中東で影響力を失い、ひいては世界全体でも地位を落としている。加えて、マクロン政権のフランスは民主制度の改革もできなかった。もっとも、これはフランスのエリート層全体に責任がある。



