本稿は「トラストバンク地域創生ラボ」より、再編集しての転載である。
今年春の甲子園。かの地を目指した高校球児たちの物語のなかに、異彩を放つストーリーがあった。長崎県壱岐市。対馬海流が流れる小さな島にある「壱岐高校野球部」が、春の選抜大会に出場したのだ。
この快挙を陰で支えたのは、島の人々、そして“ふるさと納税”だった。壱岐市商工振興課の寳来惇貴さんが、その裏側を教えてくれた。

「これは、島の誇りだ」行政も動かしたセンバツ出場
「最初に推薦出場の話が決まったとき、市役所全体がざわついたんです。これは島の誇りだと」
そう語るのは、壱岐市商工振興課の寳来惇貴さん。幼少期を福岡で過ごし、大学から長崎へ。壱岐に入り、行政職員として地域と関わりながら過ごしている。
令和6年12月。壱岐高校のセンバツ出場が推薦されると、地元には自然と「島全体で応援しよう」という空気が生まれた。しかし、離島から甲子園へ赴くには、想像を超えるコストがのしかかる。
「まず福岡まで船で移動して、そこから甲子園。時間もお金もかかる。できるだけ子どもたちと一番そばにいるその家族らに負担をかけたくなかったんです」


応援の輪を広げたのは、“早すぎるクラファン”
選手だけではない。家族も、友人も、島中の人々が応援に駆けつけたいという想いを持っていた。しかし現実には「行きたくても行けない」家庭も少なからずいる。ならば、どうするか。寳来さんたちは、ふるさと納税を活用したクラウドファンディング®(GCF®)に活路を見出した。
「最初は不安でした。まだ出場が確定していない段階から支援を募るなんて、賛否あるだろうなと。でも“準備こそが最高の応援”だと信じて走り出しました」
この“早すぎるクラファン”は、当初こそ反応が鈍かった。しかし、正式に出場が決まった瞬間に拡散され、かつて壱岐を離れた人たちからも次々と寄付が届いた。
「遠くに住んでいても、壱岐を想う気持ちは消えていない。そんなコメントが多くて……受付画面を見るたびに胸が熱くなりました」




