カルチャー

2025.12.04 15:15

オーストラリアの銀行マン野沢温泉でジン醸造、「語れる商品」を

野沢温泉蒸留所創業者 リチャーズ・フィリップ氏(トラストバンク地域創生ラボ)

野沢温泉蒸留所創業者 リチャーズ・フィリップ氏(トラストバンク地域創生ラボ)

本稿は「トラストバンク地域創生ラボ」より、再編集しての転載である。

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スキーから始まった「縁」

「最初は、ただのスキートリップだったんです」

そう話すのは、野沢温泉蒸留所の創業者、リチャーズ・フィリップさん。オーストラリア出身、20年以上にわたり日本、香港、シンガポールで金融業に従事してきた彼が仲間と共に、2022年末、長野県・野沢温泉村にクラフト蒸留所を立ち上げた。

きっかけは、銀行マン時代の2000年頃から続けていたスキー旅行。日本各地のスキー場を巡る中で、野沢温泉に特別な魅力を感じたという。

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「スキー場の質が高いだけでなく、村そのものが生きている。温泉があって、飲食店があって、宿もあって。しかもすべて歩いてまわれるスケール感がちょうどいい。何より、人との距離が近くてあたたかい」

そう語るフィリップさんは、やがて村に家を持ち、地域の祭りにも参加するようになる。とくに雪中で行われる伝統行事「道祖神祭り」では、地域の人々とともに社殿づくりに携わるなど、村の生活そのものに深く関わってきた。

「語れる商品」としてのジン

そんなフィリップさんがまず取り組んだのは、クラフトジンの製造だった。野沢温泉蒸留所のファーストプロダクトであるジンは、国内外の品評会でも高い評価を獲得し、注目を集めている。

野沢温泉蒸留所は、長野・野沢温泉村の中心、大湯から徒歩数分の距離にあるクラフト蒸留所。かつて野菜の缶詰工場だった建物を改装し、2022年12月にオープンした。蒸留所では、「雪解け水が50年かけてろ過された軟水」と、村の森や山々で採取されるボタニカルを使い、国内外で高評価のジンやウイスキーを生産。蒸留・テイスティング・バー・ギフトショップを併設し、訪れる人々に「野沢の自然の香りと季節感」を届けている。

 
さらに、蒸留責任者・ヨネダ・イサム氏が2025年に取締役へ就任し、地元との共創体制を強化。ジン4種が2023年のサンフランシスコワールドスピリッツコンペティションで金賞を獲得し、2026年には自社ウイスキーのリリースを予定している。地域の伝統資源を活かし、観光から定住、文化継承まで見据えた、ローカルグッドな蒸留所と言えるだろう。

「ジンは一週間ほどで作れるけれど、レシピ開発にはものすごく時間がかかる。自由度が高いぶん、味のバランスを取るのが難しい。でも、だからこそ“語れる商品”になると思った」

彼のジンづくりの特徴は大きく3つある。まず、ベーススピリッツには日本らしさと滑らかさを兼ね備えたライススピリッツを採用。次に、香りの決め手となるボタニカルには野沢の森をイメージした素材を使用。そして何より、ジンの半分以上を占める「水」にこだわった。

「うちのジンに使っているのは、ブナ林を50年かけて流れてくる軟水。すごくまろやかで、蒸留酒に向いている。この水がなければ、今の味は出せなかったと思う」


このジンは、プロの品評会だけでなく、一般の消費者が選ぶ「クラフトジン甲子園」でも優勝を果たした。飲んだ人が投票し、人気を競うイベントでの1位は「いちばん嬉しかった」と振り返る。

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トラストバンク地域創生ラボ

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