いままでに挙げた、イスラエルとトルコがドローンを受注したり、受注競争を繰り広げたりしているアジア諸国のなかで、互いに戦争状態にある国はなく、近い将来そうなりそうな国もない。タイとカンボジアの最近の国境衝突では、タイ軍がイスラエル製偵察ドローンを使用したが、カンボジアはもちろんトルコ製ドローンを一機も保有していない。
対照的なのがロシア・ウクライナ戦争だ。この戦争では、ライバル関係にある中東の大国であるイランとトルコが、欧州で1940年代以降最大の戦争を戦う両当事国に武装ドローンを供与していることが、すぐに注目を浴びることになった。
2022年2月の開戦直後、トルコ製のTB2は、キーウに進撃するロシア軍の戦車などを爆撃してウクライナで喝采を浴びた。同年中に、ロシアが運用するイラン製自爆ドローン「シャヘド136」がウクライナの都市や電力網を攻撃するようになった。シャヘド136はその後ロシアでライセンス生産されるようになり、ロシアはいまでは、イランの寄与を最小限に抑えた独自仕様の派生型を製造している。イラン側はそれに不満を募らせているもようだ。
アジアにドローンを輸出している中東の大国リストで目立って欠落しているのが、そのイランだ。イランはこれまで中東やアフリカ、南米の国々にドローンを売ってきたが、アジアでは実績に乏しい。興味深いことに、北朝鮮は近く自国にシャヘド型ドローンの生産ラインを持つ可能性があるが、それはイランではなくロシアによって提供されるものだ。
2022年、イランのエブラヒム・ライシ大統領(当時)をはじめとする政府高官は、世界中の国々がイラン製のドローンを欲しがっていると吹聴していた。しかし、当時すでに明らかだったように、イランがトルコのように広範な国々へのドローン輸出で成功する見込みは薄かった。イランは宿敵のイスラエルに対しても、アジア向けのドローン輸出で目立った競合相手になれていないが、興味深いことに南米ではある程度競合できているらしい。
ライシは自国のドローン自慢から2年もたたないうちに、搭乗していたヘリコプターの墜落で死亡したが、皮肉にも、その際に事故機の捜索に貢献したのはトルコのドローンであるアクンジュだった。


