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2025.09.07 09:00

OpenAI、GPT-5による「AIメンタル不調」と「人間とAIの妄想の共同創造」の抑制に注力

Westend61 / Getty Images

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今回は、生成AIや大規模言語モデル(LLM)の利用者が、一種の「AIメンタルヘルス不調」(AI psychosis。以下、AIメンタル不調)に陥り、正気を失う可能性があるのではという、急速に高まりつつある懸念について考察する。「AIメンタル不調」の顕著な例として、ある人物が妄想を抱き、その妄想の形成をAIが助長するケースが挙げられる。ある意味で、人間とAIによる妄想の共同創造が起こっているのである(編注:AI psychosis、AIメンタルヘルス不調およびAIメンタル不調は医学用語ではない。メンタルヘルス不調自体の定義は厚生労働省の冊子26ページを参照)。

この話題は最近、2つの注目すべき要因により、メディアの関心を大いに集めている。

第1に、米国時間2025年8月26日、広く普及しているChatGPTとGPT-5の開発元であるOpenAI(オープンAI)に対して訴訟が提起された(マシュー・レインおよびマリア・レイン対OpenAIおよびサム・アルトマン訴訟」)。用意されたAIのガードレールや安全対策に関して、さまざまな有害な側面が申し立てられている。第2に、同じく8月26日、OpenAIは公式ブログを投稿し、自社のAI安全対策のいくつかの要素を明確に説明した。その中には、特定の慣行や手順に関する内部詳細を史上初めて公開することも含まれていた。

ここでは、AIメンタル不調の本質、それに伴う複雑な問題を説明し、人間とAIによる妄想の共同創造について深く掘り下げる。これらの厄介な問題は、OpenAIのChatGPTやGPT-5だけでなく、Anthropic(アンソロピック)のClaude(クロード)、グーグルのGemini(ジェミニ)、Meta(メタ)のLlama(ラマ)、xAI(エックスエーアイ)のGrok(グロック)など、すべてのLLMに当てはまる。

以下この問題について論じよう。

AIとメンタルヘルス

簡単な背景として、筆者はこれまで、現代AIの登場に伴うメンタルヘルスに関わる無数の側面を幅広く取り上げ、分析してきた。近年のAI利用の増加は、主に生成AIの進化と普及によって拍車がかかっている。

これが急速に発展している分野で、計り知れないほどの利点があることはほとんど疑いのない事実だが、同時に、残念ながら、隠れたリスクや明白な落とし穴もこうした取り組みにはつきものである。筆者はこれらの差し迫った問題について頻繁に声を上げており、昨年はCBSの番組「60 Minutes」のあるエピソードに出演もした

AIメンタル不調の定義

メディアの注目を集め、急速に広く普及しつつある「AIメンタル不調」という新しいキャッチフレーズを見聞きしたことがあるかもしれない。実のところ、AIメンタル不調について、全面的に受け入れられた確定的な臨床上の定義は存在しない。したがって、現時点では、それはどちらかといえば曖昧な概念である。

参考となる暫定的な定義として、筆者が考案したものを以下に示す。

AIメンタル不調(筆者の定義):

「生成AIやLLMなどのAIとの対話的な関与の結果として、歪んだ思考、信念、そしてそれに伴う可能性のある行動が発達することを伴う、有害な精神状態。特に、AIとの長期的かつ不適応な対話の後に生じることが多い。この状態を示す人物は、通常、現実と非現実を区別することに大きな困難を抱える。1つまたは複数の症状がこの疾患の手がかりとなり、通例、それらは相互に関連した集合体をなす」

後ほど、人が生成AIを利用する中で、いかにして妄想的思考に陥る可能性があるか、その一例を示す(「妄想的思考の例」を参照)。この例はAIメンタル不調の定義を具体的に示すものであり、定義をより具体的に理解する助けとなるだろう。

もう1つ注目すべき点は、AIメンタル不調を「ChatGPTメンタル不調」と呼ぶ人々がいることである。筆者はその言葉遣いに断固として反対する。それは不適切であり、OpenAIの製品名であるChatGPTを不当に借用し、生成AI全般を指す際の代名詞として再利用しようとする試みである。さらに、仮に誰かがChatGPTを使用してAIメンタル不調を経験したとしても、それはあくまでAIメンタル不調と記述されるべきであり、ChatGPTの使用中に生じたことには付随的に言及するにとどめるべきだと主張する。

ChatGPTメンタル不調、Claudeメンタル不調、Grokメンタル不調、Geminiメンタル不調など、あらゆる製品名を冠した表現を使いたがるこの傾向が、完全になくなることを願う。私たちは、AIメンタル不調という簡潔な専門用語を適切な表現として堅持し、無数の厄介なバリエーションに迷い込まないようにすべきだ。

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翻訳=酒匂寛

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