ユーザーとAIの不健全な関係
関連する側面として、筆者は以前、AIとメンタルヘルスに関する用語として新たに登場した別のキャッチフレーズ、すなわち「ユーザーとAIの不健全な関係」(unhealthy user-AI relationship)の諸側面を定義した。筆者はそれを次のように定義した。
ユーザーとAIの不健全な関係(筆者の定義):
「ある人物が、生成AIとの対話や相互作用への関与を通じて、自身の幸福、意思決定能力、そして現実世界への没入感を精神的に歪め、置き換え、あるいは損ない始めること。これは一過性や瞬間的なものではなく(そうしたケースも起こりうるが)、むしろ、その人物によるAIとのより深い個人的なつながりや愛着、一種の親近感を伴う、真の関係と見なされるものとなる。特に、人間同士の関係において、有害な結果が生じる傾向がある」
概して、AIメンタル不調を経験している人は、「ユーザーとAIの不健全な関係」も持っている可能性が非常に高い。この2つの状態は密接に関連している傾向がある。なお明確にしておくと、ユーザーとAIの不健全な関係が必ずしもAIメンタル不調に発展するわけではない。その可能性はあるが、これは鉄則ではない。
AIと人間の妄想的思考
AIメンタル不調の最も一般的な潜在的形態の1つに、人が生成AIを利用する中で妄想的思考に陥るというものがある。
心理学の分野における一般的な経験則として、妄想性障害とは、現実と想像上のものを識別できなくなることである。本人は、現実世界に裏付けられていない明らかに虚偽の事柄を信じる。この妄想は、奇異型妄想と非奇異型妄想に分類できる。奇異型妄想は現実には不可能、非奇異型妄想は現実に起こり得るかのようなもっともらしさを帯びる。
精神障害に関する一般的な公式ガイドブック、すなわちDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)ガイドラインに記載されている妄想関連の精神障害について、また、生成AIがDSM-5の内容をどのように利用しているかについての私の記事はこちらを参照されたい。
妄想的思考の例
さて、ある人物が生成AIにログインし、ランニングについて会話を続けているとしよう。彼は走ることが大好きだ。毎日5マイル(約8km)を走り、何度か5kmや10kmのレースに出場した経験もある。彼の夢は、距離約13マイル(約21km)のハーフマラソンで競技者として走ることだ。
この身体的な健康と幸福への関わり方には、不都合な点や気になる点は何もないように思われる。
ランニングの取り組みについて話している最中、その人物がAIに対し、米国全土をノンストップで走りきれると心から信じていると語ったとしよう。休憩なし。ひたすら走る。全力で。その距離は約2800マイル(約4500km)だと仮定する。
もし彼らがこれを他の人間に話したら、話を聞いた側は何と言うだろうか。
もし話を聞いた側が比較的鋭敏な人物であれば、ランナーが冗談を言っているのかどうかを見極めようとするだろう。ノンストップで走ることなど不可能だ。少しユーモアを交えたのかもしれない。あるいは、途中で休憩を挟みながら走ると言うつもりだったのを、単に言い間違えただけかもしれない。
そのため、相手の人間は明確化を求めるかもしれない。そして、もしランナーが、休憩なしで走れると真剣に主張し続けるようであれば、事態は間違いなく、より深刻な話し合いへと移行するだろう。なぜランナーはそう信じているのか? 正気なのだろうか? 何が起こっているのか?
大きな問題は、米国全土を完全にノンストップで走るつもりだというランナーの主張に、AIがどう反応するかである。次に、AIが取りうる反応について考察する。


