宇宙

2025.09.06 13:00

マスクのスターシップ、26年火星着陸と27年月面着陸が不可能な理由

(c)SpaceX

前例のない軌道上補給

通常の2段式ロケットでは、上段にも推進剤が満載され、その上にわずかなペイロード(宇宙船などの積載物)が搭載される。しかし、上段であるシップが宇宙船を兼ねるスターシップの場合には、地球周回軌道に到達した時点で、その推進剤はほぼ空の状態になる。そのためシップを月や火星に送り込むためには、地球周回軌道上でタンカー(スターシップの補給機仕様)によって推進剤を補給する必要がある。2機の宇宙船による軌道上補給は史上初めてであり、その実証テストはスターシップV3によって2026年中に実施される予定だ。

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2機のシップによる軌道上補給は2026年に予定(c)SpaceX
2機のシップによる軌道上補給は2026年に予定(c)SpaceX

ただし、そのオペレーションには高度な技術が必要とされると同時に危険がともなう。シップの推進剤にはマイナス183度以下に冷却した液体酸素と、マイナス162度以下の液化メタンが使用されている。それらが漏洩すれば、気化して膨張した推進剤が船体を内側から破壊する可能があり、船外に漏れれば機体姿勢や軌道が偏向するだろう。

V3仕様のシップの推進剤搭載量は1600トン、V3をベースとしたタンカーのペイロードは100~150トン程度なので、シップ1機を満タンにするには10回以上の補給が必要になる。さらに推進剤のボイルオフ(蒸発による損失)やタンカーの推進剤消費を考慮すれば、12~15機が必要になるだろう。

現在、スペースXの私設射場である「スターベース」(テキサス州)には第2の発射台タワーの建設が進み、製造拠点であるスターファクトリーも稼働をはじめた。ケネディ宇宙センター(フロリダ州)における発射台タワーの建設も進み、スターシップの連続打ち上げの準備は粛々と進んでいる。しかし、2026年中に10機前後のタンカーを打ち上げることは難しいだろう。

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ラプター3が予定どおりのスペックを発揮し、推進剤の補給を最低限に抑えれば、2026年の火星ミッションには辛うじて実施されるかもしれない。ただしその後、有人軌道飛行と無人での月面着陸を成功させ、2027年中にヒトを月面に着陸させることは、現状のペースでは不可能と思われる。

現在、トランプ政権と上下両議会の間で2026年度予算を巡って攻防戦が繰り広げられているが、月と火星にヒトを送り込むプログラムに関しては、今年度よりも予算が拡大される方向にある。おそらく今後、スターシップの火星探査に関しても、何らかの形でNASAの予算が付く可能性もあるだろう。

しかし、そうした政策を基調としてマスク氏の計画が進んだとしても、トランプ大統領の任期は2029年1月まで。政権が変われば、どのような宇宙政策が提示されるかわからない。そのためマスク氏が鍵を握る月と火星のミッションに関しては、2029年1月を節目とする識者も多い。

編集=安井克至

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