「ヒートシールドのタイルがほぼ完全に固定されたままであることは注目に値する。そのため今回施したアップグレードは成功だといえる。赤い変色は酸化した金属製のテストタイルによるもので、白い部分はタイルを意図的に取り除いた部分の断熱材によるものだ」
タイルが脱落しなかったことは、シップの開発において大きな前進であり、今回のデータをもとにタイル素材の最適解を探ることで、よりスマートな再突入が達成されるだろう。これらの成果は、これまでの弾道飛行によるテストから、周回軌道テストや有人軌道テストへの進展につながるものだ。
地球より過酷な火星の大気圏突入
IFT 10ではアクティブ・ヒートシールドが試された可能性もある。これは高温なプラズマに対してタイルの耐性を高めるだけでなく、タイルに冷却剤などをまとわせることで、より積極的に機体表面を冷却するシステムだ。過去のインタビューでマスク氏は、システムが複雑になる同装置の採用には消極的なコメントを発していた。
しかし、IFT 10の機体表面の広範囲に、これだけのサビが発生したことから、推進剤として搭載する液体酸素から生成したガスを、ノーズの直下付近から噴出させることでタイル冷却を試みたのではないか、との指摘もある。
マスク氏が5月に行った火星探査に関するプレゼンで示唆したように、火星での大気圏突入は地球よりも過酷になる。火星の大気密度は地球の1%にも満たないが、その大気の95%を占める二酸化炭素がプラズマ化することで炭素と酸素が生成され、さらに遊離酸素(化合物から分離した状態の酸素分子や酸素原子)による酸化反応が高まる結果、ヒートシールドに対する酸化と燃焼の作用が地球大気よりも激しくなる。
しかも大気圏突入時の機体速度は、地球(秒速7.5km程度)よりも火星(秒速11~12km程度)のほうが速く、大気密度の低い火星では、熱の流れ(熱流束)が低下するため熱が溜まりやすい。こうした事象から考えれば、地球でのヒートシールドのテストが万全となり、火星への往復を開始した以降も、ヒートシールドの試行錯誤は長く続くだろう。


