小山:ということは、本はいまでも売れていることは売れている?
大垣:売れています。うちの場合、前年比は100%を超えたりしていますね。
小山:京都と東京はまったくマーケットが違うと思いますが、麻布台ヒルズ店は何かコンセプトを立てたのですか? オフィスはたくさんあるし、インターナショナルスクールもあるし、それこそ超高級マンションの「アマンレジデンス 東京」もある。
大垣:確かに麻布台ヒルズのときは、「アートに振り切ろう」とか尖った内容のアイデアがたくさん出ましたね。ただ、小山さんがさきほどおっしゃったように、書店は入って出るのが自由な場所。その「入って出る」人は誰かというと、やはり地元の人で、そこに生活圏があったり仕事があったりするわけだから、その人たちを精一杯、真摯にイメージしてつくればええか、という感じに落ち着きました。
小山:とはいえ、食品だと「だったら新鮮なオーガニック野菜を売ろう」とか考えられますが、書籍は富裕層だから高い本が売れるというわけでもないんじゃないかと。
大垣:確かに「新しい部屋に収めたいから」とアートブックを数十万円分購入された方などはいます。でも思ったより普通の本が売れますね。想定外だったのは児童書。子どもへの投資意欲が高いので、児童書や、パズルや積み木などの知育玩具の売れ行きが全体の20%になります。
小山:逆に難しいのは?
大垣:文芸ですね。やはり1回読んで満足感のあるものと、勉強のために蓄積していくものの差が、結構ある気がします。
今月の一皿

大垣氏が出版社の会社員時代に通った思い出の店「たん焼 忍」のタンシチュー。和風のデミグラスソースが絶品。
Blank

都内某所、50人限定の会員制ビストロ「blank」。筆者にとっては「緩いジェントルマンズクラブ」のような、気が置けない仲間と集まる秘密基地。
大垣守可◎1988年、京都府生まれ。佛教大学卒。東京の出版社で雑誌編集などを経験後、2016年に大垣書店へと転職。21年、書店、カフェ、印刷工房、ギャラリーなどを併設する「堀川新文化ビルヂング」(京都・西陣)をプロデュース。24年、取締役に就任。
小山薫堂◎1964年、熊本県生まれ。京都芸術大学副学長。放送作家・脚本家として『世界遺産』『料理の鉄人』『おくりびと』などを手がける。熊本県や京都市など地方創生の企画にも携わり、2025年大阪・関西万博ではテーマ事業プロデューサーを務める


