元宇宙飛行士シュミットの構想に、建設機械大手Vermeerが開発協力
インタールーンの発起人であり、テクノロジーの助言を行っているのは、89歳の元宇宙飛行士のハリソン・シュミットだ。彼は、同社のエグゼクティブ・チェアマンを務めている。米国最後の有人月探査となった1972年のアポロ17号のミッションに参加し、月面を歩いた唯一の地質学者であるシュミットは、1980年代から月面でのヘリウム採掘を提唱してきた人物だ。彼は、ウィスコンシン大学の研究チームとともに、ヘリウム3を用いた核融合の可能性を探り、採掘装置のコンセプトを考案した経歴を持っている。
2018年にマイヤーソンがブルーオリジンを退社した際、シュミットは彼に月面採掘を検討するよう説得した。彼はまた、アポロ計画で採取された試料に比べて2倍から3倍高い濃度でヘリウム3が存在すると考えられる月の赤道域の表側の地点を特定する手助けをしたほか、インタールーンのヘリウム3の採取手法の開発にも貢献している。
農場のコンバインが着想源となるも軽量化と耐久性が課題
インタールーンはまた、月面用の掘削機の製造において、理想的なパートナーを見つけた。それは、建設業界や鉱業、農業向けの機械を販売する売上高10億ドル(1470億円)を誇るVermeerのジェイソン・アンドリンガCEOだ。かつてNASAで火星探査車に携わっていたアンドリンガは、自身のアイオワ州の会社の機器を月や火星で活用できるようにすることに長年関心を抱いてきた。
インタールーンは、開発中の採掘機が農業用コンバインに似た仕組みであることから、この機械を「ハーベスター」と呼んでいる。このマシンは走行しながらレゴリスを取り込み、処理後の物質を後方に排出する。通過した跡は畑を耕したような地表になる。大きさは電気自動車ほどで、重量は数トンと採掘機としては軽量に設計されている。宇宙に打ち上げる機器は軽量化が必須だが、月面の重力は地球の6分の1であるため、軽すぎると問題が生まれる。掘削時に下向きに力を加える際、機器を地面にしっかり固定するのが難しくなるのだ。
さらに、この装置は月特有の過酷な環境にも耐えなければならない。月面の大部分は、風や水による風化を受けていないため、角が鋭い微細な塵で覆われている。アポロ計画の際には、この塵が宇宙服のブーツや試料容器のシールを摩耗させ、採取装置の動きを妨げたとシュミットは語っている。
さらに問題は、月の赤道付近では昼間に摂氏121度の高温に達し、夜にはマイナス246度の低温に下がる大きな温度変化によって金属部品が膨張と収縮を繰り返すことだ。
NASAは探査車や着陸機において、塵が機構部に入り込まないように密閉する技術を確立してきたが、それらは粉砕を伴う採掘作業を行ったことはない。ドライヤー教授は「科学ミッションが扱ったのはわずかグラム単位の試料にすぎない」と指摘する。対してインタールーンは、ハーベスターで1時間に100トンものレゴリスを掘削することを目指しており、パートナーのVermeerと共に摩耗した部品をロボットによって交換するための設計を検討している。
この装置はいったいどれほどのコストがかかるのか? マイヤーソンCEOは「議論するには時期尚早だ」と述べるにとどめているが、ドライヤー教授は初期型のハーベスターで2000万ドル(約29億円)程度になると見積もっている。
しかし、大量生産が可能になれば、コストは大幅に下がる可能性がある。「全体のスケールで見れば、機械そのもののコストはそれほど大きな問題ではない」とアンドリンガは語り、それよりも圧倒的に大きなコストが、機材の打ち上げに必要だと強調した。


