量子コンピューターから核融合まで広がるヘリウム3の多様な用途
軽くて高価値なヘリウム3は、宇宙で最初に狙うべき資源だと広く考えられている。この元素は太陽内部の炉で生成され、太陽風によって月に運ばれるが、地球では大気と磁場に阻まれるため地表に届かない。科学者たちは、核兵器や原子力発電所で使われるトリチウムの崩壊によって生じるヘリウム3を回収する方法を編み出しているが、その量は年間20キログラム未満にとどまる。
ヘリウム3の主な用途は、核爆弾や密輸された放射性物質から放出される中性子を検知するためのセキュリティスキャナーだ。9.11以降、港湾や国境検問所には何万台もの検知器が配備されてきた。
しかし、別の用途としてその強力な冷却能力への需要も高まっている。グーグルやアマゾン、IBMといった企業は、ヘリウム3を使って量子コンピューターを絶対零度近くまで冷却し、より効率的に稼働させている。さらに究極の目標は、ヘリウム3を燃料として核融合発電を行い、放射線を発生させずにエネルギーを生み出すことだ。
レディット(Reddit)の共同創業者も出資
インタールーンはこれまで累計1800万ドル(約26億円)を調達しているが、そのうち1500万ドル(約22億円)は、2024年にレディット(Reddit)の共同創業者アレクシス・オハニアンのベンチャーキャピタル(VC)のSeven Seven Sixが主導したシードラウンドで調達した資金だ。同VCのパートナーのケイトリン・ホラウェイは、月面でのヘリウム3の採掘が必然的に進むと見ており、インタールーンの素晴らしい経営陣は計画を実行に移すための経験を備えていると考えている。
米国のヘリウム3の供給を管理するエネルギー省は今春、2029年にインタールーンから3リットルのヘリウム3を市場価格で受け取る契約を結んだ。また、量子コンピューター用の冷却システムを製造するMaybellは、今後10年間で数千リットルを購入する契約を結んでいる。
ただし、この計画を実現するにはさらに多額の資金が必要だ。マイヤーソンCEOは具体的な規模を明言していないが、インタールーンとともにNASAの研究契約に取り組んでいるコロラド鉱山大学のドライヤー教授は、同社が構想する完全な採掘システム(掘削機5基と処理装置、電力供給のための太陽光アレイ、そして輸送手段)を展開するためには、「数十億ドル(数兆円)ではなく数億ドル(数千億円)規模の資金」が必要になるだろうと見積もっている。
月に到達する前の収益化へ地上技術の応用で資金を確保
同社は月面に到達する前に、自社の技術を顧客に提供することで、その資金の一部を確保する計画だ。インタールーンは、天然ガスからヘリウムを取り出している企業に対し、自社の蒸留装置を使えば、ごく微量に含まれるヘリウム3が分離できると売り込んでいる。マイヤーソンCEOは、こうした仕組みを活用する顧客企業が、年間で約2000万ドル(約29億円)相当の1キログラムのヘリウム3を生産できると考えている。
インタールーンが目指すもうひとつの短期的な事業は、地球上で「月の土」をつくることだ。同社は、採掘機を試験するために大量のガスを注入した月面レゴリスの模擬物質を必要としている。また、他の企業や政府機関も自らの宇宙機器を試験するためにそれを求めている。そのためインタールーンはこの分野で、テキサス宇宙委員会から480万ドル(約7億円)の助成金を獲得し、レゴリス模擬物質の開発と量産に取り組んでいる。


