“新装開店”した龍谷大学社会学部の「理論と実践」が育てる突破力ある学生たち。
その秘密は「お祭り」に? 吉田竜司学部長とオマツリジャパン・加藤優子代表が語る。
加藤優子(写真右。以下、加藤):今日初めて、龍谷大学深草キャンパスに伺いましたが、敷地も建物もすごく素敵ですね。
吉田竜司(写真左。以下、吉田):今年4月、滋賀県大津市にあった社会学部が総合社会学科1学科体制となって、ここ京都の深草に移転しました。それに伴い新しく校舎を4つ建造し、食堂含め全体をリニューアルしています。学生にとって学ぶ環境が快適であることは、とても重要ですからね。
加藤:この総合社会学科には現代社会、現代福祉、健康・スポーツ社会、文化・メディアという4領域があって、フィールドワークをはじめとする現場での実習と理論を学ぶわけですね。日本の歴史と文化を象徴し、多くの観光客でにぎわう京都に移転したことは、研究者や学生たちに大きな刺激を与えそうですね。
吉田:おっしゃる通りです。さらにこの4領域をまたいだ領域横断的な学びができるよう、風通しのよいカリキュラムを用意しました。私の研究テーマは日本の「祭り」で、特に都市の祭礼に注目しています。祭りには地域および外部の多数の人が参加し、文化、政治、経済、宗教など社会のあらゆる要素が絡みます。その意味では、祭りはまさに領域横断的な研究対象といえます。特に今から1000年以上前に起源をもつ京都の祇園祭は日本の都市祭礼のルーツであり、社会学の研究対象としても絶好の存在です。加藤さんの会社もお祭りを事業とされていますね。
加藤:私は「祭りで日本を盛り上げる」を理念に、オマツリジャパンを2014年に立ち上げました。きっかけは東日本大震災の直後、祖母の暮らす青森で、ねぶた祭りを見たことでした。震災の自粛ムードで昼は静かだった町が、夜になって祭りが始まると、数え切れないほどの人が集まり、笑顔であふれていたんです。それを見て「祭りこそが日本の元気の源なんじゃないか」と。これが起業のきっかけでした。
吉田:そこから日本各地の祭りの活性化サポートを始めたわけですね。
加藤:日本には約30万もの祭りがあるといわれています。その一つひとつが、私が幼いころから親しんだ青森ねぶた祭りのように、各地の人にとって「特別な祭り」なんです。しかし近年、物価の上昇や自治体の予算の削減で日本中の祭りが縮小の危機に陥っています。そこで私たちは、プレミアムな観覧席をつくって売り上げの一部を祭りに還元したり、大企業からプロモーション費用の協賛金を集めたり、祭りと踊りなどの団体と商業施設をつなげてパフォーマンスしていただくことで、支援を行っています。
吉田:素晴らしい。まさに本学の社会学部で育成したいのはさまざまな現場に飛び込んで、地域課題を自分で探し、解決できる力をもつ人材。課題解決力というのは、あらゆる企業や組織に必要な能力になってきていますから。
今必要な「公共性」を現場で学ぶ
加藤:最近、伝承が危ぶまれていた岩手のある祭りを、若者が中心となってSNSを活用してPRしたら、子どもたちの参加が激増したそうです。それから当社でも、行事を支える応援者を増やすため、秋田県の男鹿のナマハゲに、「祭り留学」というコンセプトで都心の人たちを中心にプログラムに参加してもらったことがあります。
地域の歴史や文化を土地の人から教わり、関係性ができてから祭りに参加する取り組みです。祭りは地域のものですが、そうして祭りの「関係人口」を増やしていくことで、ゆくゆくは文化継承につなげることができるんです。
吉田:少子高齢化が進むなか、祭りの継承は各地で難しくなっています。そんなふうに外の人を取り込んでいくことが、伝統をつなぐカギになると思います。
よその土地から来た人、近年では外国人も含めて、祭りに溶け込ませてしまう強い場の力というのは、それこそ社会学でいう「公共性」がもつ重要な機能のひとつなんです。グローバリゼーションとともに人々の分断が進み、不安定化する社会にいかに公共性を取り戻すかが、世界的に重要な課題となっています。
加藤:世界中の観光客が訪れる京都は、日本のグローバリゼーションの最先端の土地といえますね。
吉田:京都はリアルな社会課題が出現しやすい都市なんです。本学の最寄り駅の路線には、伏見稲荷大社や清水寺、八坂神社など観光のメッカがあります。観光客が押し寄せる「オーバーツーリズム」が問題となっていますが、学生たちは通学時に日々それを体感するわけです。まさに「現場主義」。こうした実体験こそが、社会学の学びには非常に重要であると私たちは考えています。
体験を通して課題を発見する。それを大学にもち帰って理論的に分析し、また現場に戻ってファクトを集める。「理論と実践の往還」を続けることで、社会の本質的な理解と解決策を深めることができるのです。
ぴあ総研との連携で生まれるもの
加藤:龍谷大学ではキャンパス移転を機に今年3月、集客エンタメ領域に特化した国内唯一のシンクタンクである「ぴあ総合研究所」(ぴあ総研)と連携協定を結ばれたと聞きました。それも「現場主義」の教育の一環なのでしょうか?
吉田:ぴあ総研との連携は、社会学部の「現場主義」教育において、新しい可能性を開いてくれると期待しています。ぴあ総研の母体であるぴあは、国内有数のエンタメ企業です。ビジネスで培ったノウハウをもとに、文化芸術・エンタメ・スポーツなどの分野で、ウェルビーイングの追求や共生社会の実現に取り組んでおられます。
本学が「共生」の理念をもって多様な社会課題に向き合ってきたことに共感いただき、協定締結が実現しました。総研の所長にはエンタメ業界の最新の動向をまじえつつポピュラーカルチャーに関する正課の授業を担当いただいています。今後、ビジネスの観点をもちながら持続的に社会を豊かにしていく活動に学生がかかわることができれば、まさにリアルな現場の学びとなると考えています。
加藤:ある課題に「エンタメ」の楽しさからアプローチするって、大切ですよね。最近では盆踊りで、ロックバンドやアイドルの曲がかかったり、DJがブースで盛り上げたりしています。「炭坑節」のような伝統的な盆踊りもきちんと継承しながら、そういう現代の流行を取り込む工夫がどんどん行われているんです。
吉田:面白い! 祇園祭の山鉾の造形や、だんじり祭りの地車に刻まれている源平合戦の装飾だって、当時の感覚では最先端のアート。伝統的な祭りは、知恵やアイデア、発想のヒントに満ちています。これからの祭りも現代のものを取り込んで発展させることが、まさに「生きた祭り」をつくり上げていくことだと思います。オマツリジャパンの活動に、うちの学生たちも参加できたらうれしいですね。
加藤:龍谷大学社会学部ならではの現場の知恵と発想に富んだ学生たちなら大歓迎です。ぜひ、一緒に盛り上げていきましょう!
龍谷大学
https://www.soc.ryukoku.ac.jp/
かとう・ゆうこ◎オマツリジャパン代表。武蔵野美術大学油絵学科卒業後、企業で商品開発とデザインを担当。その後、2014年に全国のお祭りを多面的にサポートする団体「オマツリジャパン」を創業。23年、Forbes JAPAN「カルチャープレナー」に選出。
よしだ・りゅうじ◎龍谷大学社会学部長。専門は集合行動論。京都大学大学院文学研究科博士後期課程中退。1999年から龍谷大学の教壇に立ち、2025年4月より現職。論文に「伝統的祭礼の維持問題」などがある。



