極めて重要な米印関係に水を差す中国
米国は、世界人口の42%、特にある国の世論を失うわけにはいかない。それはインドだ。米国は世界最大の人口を擁するインドとの軍事協力を深めている。インドは東西冷戦以降、長らく非同盟主義を貫いており、その方針は今日に至るまで同国の外交政策に影響を与え続けている。同国は当初、現実主義的な防護策として、また隣国パキスタンとの関係を管理する手段としてSCOに加盟したが、一部の組織的取り組みへの参加を拒否するなど、慎重な姿勢を見せてきた。だが、関税を巡って米印関係が悪化する中、インドのナレンドラ・モディ首相は今回のSCO首脳会議で7年ぶりに中国を訪問し、両国は協力強化を約束した。
中国は新たな国際機関をローフェアにも利用
中国が米国主導の取り組みに対抗するため、新たな国際機関を設立するのは珍しい動きではない。ローフェアは中国軍事戦略思想の基盤の1つだ。その戦術の1つは、筆者が「制度的ローフェア」と呼ぶものだ。これは中国の戦略的目標を推進するために、新たな国際法や国際機関を創設する手法だ。中国は自国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)や新開発銀行(NDB、通称BRICS銀行)といった組織を利用して、自国の政治目的を強化する規範を作り出す。こうして、同国は世界が従うべき規則を書き換えようとしているのだ。
今回のSCO首脳会議に先立ち、中国は新たな人工知能(AI)に関する国際機関の構想を打ち出した。これが現実のものとなれば、世界で最も重要かつ破壊的な技術であるAIについて、中国が規則と言説を設定できる場となるだろう。同国は間違いなく、この新たなAIに対する主導権を、平和と繁栄のための安全保障協力という展望に組み込むだろう。
中露とのローフェアや情報戦で後れを取る米国
ローフェアや情報戦に対する対応では、米国は後れを取っている。文民か軍人かを問わず、米国にはローフェア対策に専従する常勤の職員が存在しない。同国は国防権限法(NDAA)を修正し、この戦略上の空白を埋めようとしている。
情報戦は米国にとってさらに厄介な課題だ。米国における言論と情報の自由(情報を受け取る権利を含む)に対する憲法修正第1条の強力な保護によって、敵対勢力の情報戦に対する対応能力が複雑化しているからだ。米政府は法的に真実を独占することはできず、米国には情報戦活動を調整する国家の情報機関も存在しない。米情報局(USIA)は、冷戦終結後の1999年に廃止された。国務省のグローバルエンゲージメントセンター(GEC)や国土安全保障省の偽情報統治委員会(DGB)など、偽情報対策に向けた近年の取り組みも解散された。米軍はこの10年間で情報戦を戦闘の一側面として真剣に捉えるようになってきたが、その取り組みは国防総省全体で統合されているわけではない。
米国には、SCOのような中国主導の取り組みを無視する余裕などないはずだ。米国の同盟国も、中国主導の組織や構想に参加する傾向が強まっている。米国は中国の虚偽の主張に対抗し、すべての国の安全保障、自由、繁栄の保証者であるという自らの言説を確立するために取り組んでいく必要がある。米国はまた、中国とロシアが違反しないよう国際法の強化に努めるとともに、AIをはじめとする新興技術に関する規範や規則、基準を確立しなければならない。米国は中国とのいかなる紛争においても、道義的かつ法的な優位性を失うわけにはいかない。戦いが始まる前に主導権を譲るなどもってのほかだ。


