現代のAIシステムが膨大なデータで訓練され、莫大な計算資源によって駆動していることは広く知られている。しかし、その背後でデータを提供する研究者や医療機関、スタートアップ、さらには個人に至るまで、多くの貢献者が正当な評価や報酬を受けられていない現実はあまり知られていない。AIの生み出す価値は、モデルを掌握する一部の企業に独占されているのが実情だ。
分散型AIプラットフォーム「GaiaNet(ガイアネット)」を提供するGaia Labs(ガイアラボ)を立ち上げたマット・ライトCEO(最高経営責任者)と共同創業者のシャシャンク・スリパダ、シドニー・ライは、この状況に変革をもたらそうとしている。彼らの主張は明快だ。それは、データや計算資源、専門知識といった形でAIに価値を提供した者は、その所有権を保持し、システムが活用された際には正当な報酬を受け取るべきというものだ。
これは、ロイヤルティの概念に似ている。例えば、医療機関が患者データを活用して診断エージェントを訓練した場合、そのモデルと基盤情報の所有権を保有できる。そして、そのエージェントが他院で導入されれば、開発元の医療機関に対価が還元される。同様に、計算資源を提供するハードウェア事業者や、専門性の高いデータセットを供給する研究者にも、この仕組みを適用すべきだとガイアラボは主張する。同社のインフラは利用状況を追跡し、報酬を自動的に分配するよう設計されている。
ここで焦点となるのが、「所有権」の適用範囲である。研究者がデータを収集・整理した場合、その資産はガイアネットのフレームワーク内でその研究者自身が管理することになる。一方、オンライン上に公開された記事が無断でスクレイピングされ、既存のAIモデルの学習に利用されていたとしても、それが自動的に執筆者のデータになるわけではない。ガイアネットは、過去の学習素材を遡って報酬を再配分することは行わない。その代わり、貢献者が同プラットフォームへの参加可否を判断できるとともに、データの可視性やコントロール権を保持できる仕組みを提供している。
「これまで、実際に価値を生み出している人々は軽視されがちだった」とライトは指摘する。「我々は、彼らがイノベーションを生み出し、自らの創造物の所有権を保持できる仕組みを構築しているのだ」。



