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2025.09.05 11:30

自動文字起こし・AIボイスレコーダー「Plaud」を生んだ、中国の連続起業家の挑戦

PLAUD NotePin(n.tati.m / Shutterstock.com)

米中対立を意識した米国法人化と情報管理

先週、シューはサンフランシスコでジャーナリストやテック系ブロガーを招いたイベントを開き、Plaudの最新製品を発表した。大容量バッテリーと小型ディスプレイを備え、長時間録音に対応した「Note」の新しいプロ向けバージョンだ。

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シューが米国に滞在していたのは製品発表のためだけではない。彼は2023年にサンフランシスコにPlaudのオフィスを開設した。現在は全社員200人のうち20人とともに米国を拠点にしている。シューは「ハード設計は深センが最高で、AI開発はサンフランシスコが最高だ」と語る。ただ米中間の緊張が高まるなか、彼はPlaudが米国企業であることを強調している。デラウェア州で登記され、ユーザーデータは米国内のアマゾンのデータセンターで保管されている。

Carbide Venturesのパートナー、ダン・ワイリッチは今年約500万ドル(約7億4000万円)をPlaudに投資した。彼は「ネイサン・シューは賢い判断をした」と評価する。さらに「新聞の一面を飾るなら大規模IPOの話であってほしい。『中国のテック企業が米国中の会話を録音していた』などという話はごめんだ」と語った。

秘密録音の法的リスクと「ビジネス利用」に徹するPlaudの姿勢

地政学的な問題は別にしても、小型ウェアラブルで密かに会話を録音することには多くの倫理的・法的問題がある。カリフォルニア州などでは同意なしの録音を厳しく禁じる法律があり、違反すれば罰金や懲役刑の可能性もある。

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シューはPlaudがビジネス向けに特化している限り、安全な領域にとどまれると考えている。彼は「私たちは徹底して仕事の生産性向上に特化する。プライベートな領域には一切踏み込まない」と語った。

一方、常時リスニング型AIデバイスを販売し「記憶の拡張」を掲げるLimitlessの共同創業者ダン・シロカーは、懸念は行き過ぎだと考える。彼は「最初のスマートフォンを思い出してほしい。あのときも皆カメラに怯えていた。プライバシーの終焉だと言っていた」と語った。

シリコンバレーはこれまでも生活のデジタル化を繰り返し試みてきた。トロント大学のスティーブ・マン教授は1994年、ウェアラブルカメラで自分の生活をオンライン公開した。ゲーム配信プラットフォームTwitchは2007年、共同創業者ジャスティン・カンが8カ月にわたり全生活を生中継したことから始まった。

またグーグルのスマートグラス利用者は「グラスホール」と揶揄された。しかしそれから約10年後の今年、メタは写真や動画を撮影できるAI対応Ray-Banサングラスを年内に200万本販売する見通しだ。

サブスク収益と今後の生存戦略

AI対応ボイスレコーダー市場では現在、Plaudが1歩リードしている。シューは財務基盤を強化し、取締役会に米国人を増やすだけでなく5億ドル(約740億円)の軍資金を確保したいと考えている。ただこれは野心的な構想だ。年間14億3000万ドル(約2116億円)を売り上げていたFitbitは2019年、グーグルに21億ドル(約3108億円)で買収されていた。PlaudはこれまでCarbide Venturesのワイリッチ、投資家パトリック・カヴァナーから小規模調達を行っただけで、評価額は非公開のままだ。

現在のPlaudの収益の約半分は年間AIサブスクリプションから得られている。シューはビジネスユーザー向けの新機能を開発し続けている。これにより評価額は、直近で53億ドル(約7844億円)とされた医療向け文字起こしスタートアップAbridgeに近づく可能性がある。

アップルやグーグルなど大手の参入リスク

ただしアップルやグーグルがアプリの機能追加や新デバイスでPlaudと競合を一気に押しのける可能性もある。実際アップルは「Apple Intelligence」のアップデートに無料のボイスメモ文字起こし機能を追加した。Zoom、マイクロソフト、Granolaのようなスタートアップも同様の議事録機能を提供している。

元アップル幹部の1人はPlaudがいずれTiVoの録画機のように忘れ去られる可能性が高いとみている。iPodの開発者で後にグーグルに買収されたNestの創業者トニー・ファデルは「これらのデバイスは単なる機能なのか、それとも製品なのかを見極める必要がある」と語った。

一方でシューは、アップルかマイクロソフトが将来的に、真に革新的なAIデバイスを生み出すと考えているが、それが実現するのは数年先だとみている。そしてそれまでの間、Plaudは安定した顧客層を維持できる。録音を電話で中断されたくない、追加マイクや長時間バッテリーのためなら出費を惜しまないといった裕福なホワイトカラー層だ。彼はまた、指輪型、イヤホン型などの新たなウェアラブルだけでなく、Plaudを「人間の知性を拡張する」存在に進化させる構想を描いている。

「私たちの製品は、AIを活用した仕事のパートナーだ。単なるボイスレコーダーではない」と周は語った。

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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