ディック・ポルティッロ（85）は、米国で「アメリカン・ドリーム」を体現した人物の1人だ。わずかな元手からホットドッグスタンドを始め、一代でシカゴ地元民に愛される飲食チェーンを築き、2014年には10億ドル（約1480億円）で売却した。その後は不動産投資家として再び成功を収めたが、本人は「昔の方が楽しかった」と語る。巨額の成功と幸福感のギャップは、ビジネスの栄光と人生の充足の関係を浮かび上がらせる。
事業売却後、総資産1480億円超の投資家へ転身
シカゴ風のホットドッグやイタリアンビーフサンドを提供するレストランチェーン「Portillos（ポルティロズ）」の創業者、リチャード・ディック・ポルティロが、1963年に立ち上げたチェーンを2014年に売却してから11年が経過した。今から約60年前に最初の店をオープンした場所から、ごく短時間のドライブで行ける場所に建つ、広さ約836平方メートルの邸宅のリビングに腰掛けた85歳の元海兵隊員の彼は、当時を懐かしみながら、「売ったのは残念なことだった。私は10セントの借金すらしていなかったのに」と語った。
しかし彼は、結局それが正しい判断だったと考えている。「24社ものプライベートエクイティが、ポルティロズの買収に興味を持っていた。タイミングが良かったんだ」。
プライベートエクイティ24社が関心
ポルティロは、給水設備すら備えていない小さなトレーラーで始めたホットドッグの屋台を、50年以上の時間をかけて、シカゴ市がその創業日の4月5日を「ポルティロズの日」と公式に定めるほど愛される地元のチェーンへと発展させた。同社は、2014年までに4州で38店舗を展開し、年間売上高が約3億ドル（約444億円。1ドル＝148円換算）の規模に成長していた。負債はなく、すべての店舗をポルティロが自身で所有していた。彼はその年の7月に売却を決断し、ボストンに拠点を置くプライベートエクイティのバークシャー・パートナーズから約10億ドル（約1480億円）を手に入れた。
旧店舗不動産を買い戻し、コンサルタントとして年間約3億円の収入
しかし突然、莫大な現金を手に入れてやることがほとんどなくなった彼は、買収の直後にイリノイ州とアリゾナ州にあるポルティロズのレストランとセントラルキッチン20店舗分の土地と建物を1億ドル（約148億円）超で買い戻すための交渉を行い、最も売上の高い店舗群の一部を20年間のリース契約で貸し出した（ポルティロズの店舗の平均売上高は760万ドル（約11億円）で、急成長しているチックフィレイやレイジング・ケインズを上回る。ブランドの知名度が高いシカゴ地域の店舗は平均で1100万ドル［約16億円］を売り上げている）。彼はまた、2021年までコンサルタントとして会社に残り、年間200万ドル（約3億円）を稼いでいた。
それ以来彼は、売却益の残りを再投資し、シカゴ郊外のショッピングモールからインディアナ州の工業用不動産、ヒューストンのアパート、フロリダ州ネイプルズの投機的住宅まで、多様な事業を手がけている。
ポルティロはまた、昨年4700万ドル（約69億円）を売り上げた、ディズニー・スプリングスにある全米で3番目に高収益の独立系レストラン「ザ・ボートハウス」の筆頭株主で、シカゴの名門ステーキハウスの投資家でもある。さらに、彼はポルティロズの店舗を4軒買い戻しており、今後もさらに買い戻す計画だ。
「これが私が所有している物件の一部だ」と話すポルティロは、全米の不動産の写真をめくり、成功した事業を次々と挙げながら、「学歴のない子どもにしては、上出来だろう」と語った。
フォーブスは、これらの事業に加え、債券やプライベートエクイティ、株式のポートフォリオ、複数の自宅、ジェット機、ヨット（名前は「トップドッグ」）などを所有するポルティロの保有資産が10億ドル（約1480億円）を超え、かつてないほど裕福になったと試算している。
それでも彼は、これほどの成功を掴んだ後も、今の暮らしが最初の事業を築き上げていた日々ほど刺激的ではないと率直に認めている。「ポルティロズは楽しかった。本当に大変だったし、莫大な時間と犠牲を費やした」と彼は振り返る。「売ってしまったのは残念だ。あのときのほうが幸せだった。今も幸せだが、あのときのほうがずっと楽しかった」とポルティロは語った。
