法改正後の課題
1. CBD製品の残留THC限度値
1つめはCBD製品におけるTHC残留限度値が極めて厳しく設定されたことです。CBDとTHCは同じカンナビノイドであり、CBDを単離しても微量のTHCが残ることがあります。またCBDは強い酸や熱でTHCに変性するリスクもあります。改正後の基準値は、油脂・原料で10ppm(0.001%)未満、一般製品は1ppm未満です(ドリンクは0.1ppm未満)。海外でもここまで厳しい基準はなく、原料調達が困難になりました。さらに、この水準で検査できる機関も限られており、コスト増や検査信頼性への疑問も生じています。その結果、「合法で安全なCBD製品は何か」が小売やユーザーの間で不明瞭になり、せっかくの歴史的改正にもかかわらず市場はむしろ縮小してしまった印象があります。これに対応するため、業界団体であるカンナビジオール安全・安心協議会が「安全なCBD製品」のガイドラインや認証マークを策定する動きが期待されています。
2. 合成カンナビノイドと天然カンナビノイドの規制
次に、精神作用を持つ合成カンナビノイドや天然カンナビノイドを巡る規制のいたちごっこです。かつて「大麻グミ」という言葉が話題になりました。THCは麻薬及び向精神薬取締法で規制されていますが、似た作用を持つ合成成分(THCHやHHCHなど)が次々に登場しました。「大麻グミ」の成分もまたそのひとつです。市場で流行すれば半年ほどで指定薬物に追加されるという繰り返しです。人体への影響が不明な新規成分も多く、非常に危険です。こうした流れの中で、化学構造の近い物質を包括的に規制する方式が導入され、天然成分であるTHCVまで規制対象となる事態も起こりました。天然成分は合成成分に比べればこれまで研究されており、自己治療に使う患者もいるため、本来は慎重な扱いが望まれるものです。最近ではCBNも精神作用が疑われ、事件化するケースが相次ぎ、厚労省の対応が注目されています。
3. 運用の不透明さ
最後の課題は、今回の新浪氏の件にも関係する「運用上の不透明さ」です。THC残留基準を超えた場合、誰がどのように処罰されるのかが明確でありません。薬物事犯は「恣意性→違法と知りながら行ったか」が重要です。メーカーが第三者検査を経て出荷していれば恣意性はないと考えられます。しかし「検査を避けた」「限度値超えを知りつつ出荷した」場合は違法です。ユーザーの場合はさらに複雑です。合法的に販売されている製品を、消費者が違法と見分けることは困難だからです。これまでにも、職務質問で不明成分のVAPEや「CBD」と書かれた製品が押収され、簡易検査でTHCが出て科捜研送りになることはありました。しかし、CBD製品を使っただけで家宅捜索を受けた例は業界内でも聞いたことがありません。それが新浪氏のケースで起きたのです。


