しかし、習は米国との貿易交渉で、あえて非常につれない態度を取っている。中国政府は先ごろ、米国との“グランドバーゲン(大きな取引)”の期限をさらに90日延長することに成功した。11月にその期限が来れば、おそらくまた90日延長されるだろう。
中国は時間が自国側に味方していることを知っており、トランプはディールにこぎ着けようとますます焦りを募らせている。トランプが「MAGA(米国を再び偉大に)」と呼ばれる岩盤支持層に対して、関税によるインフレや激しい相場変動、雇用の喪失は見合うものだったと納得させられるものがあるとすれば、それは中国との「大きく美しい」合意だけかもしれない。裏を返せば、こうした合意がなければトランプが低迷する支持率を上向かせるのは至難の業だ。
中国とのビッグディールがなければ、トランプは再び怒りに任せて暴発しかねない。その矛先はとくに、米国の伝統的な同盟国をはじめとするパートナー国に向けられるおそれがある。理由については議論の余地があるが、トランプは米国の敵よりも味方を刺激するのが好きだ。ウラジーミル・プーチン大統領のロシアに甘い対応をする一方で、インドに対して50%もの関税を課しているのを見てもいい。プーチン本人を罰するのでなく、ロシアから石油を買っているインドを罰するというトランプの行動には、SFドラマの『トワイライト・ゾーン』のような異様さ、不可解さが漂う。
日本もこうした、理屈の通らない宙ぶらりんな状況のただ中に置かれている。日本はトランプと15%の関税で合意したと考えている。だがここへきて、日本の多国籍企業が2026年以降の計画を立てられるようにこの関税率を確認し、固定するのは、ひどく困難だということがわかりつつある。
だから赤沢はワシントン行きを見送った。トランプが喧伝する5500億ドルの「ボーナス」の件も含め、日米の合意をうまく進められそうにないのなら、そうするのも無理はない。


