日本側の懸念は日増しに強まっている。最も顕著な兆候は、赤沢がこのほど、通算10回目の通商協議のための訪米を直前になってキャンセルしたことだ。そもそも、ディールが成立したとされる日から40日近くもたって、あらためて対面の協議が必要となること自体おかしな話だ。いずれにせよ、日本の交渉責任者が訪米を取りやめたというのは不吉な前触れに映る。
日米をぎくしゃくさせている大きな原因のひとつは、合意からほどなくして発覚した食い違いだ。日本の当局者は、米国が15%の関税を日本からの輸入品に一律で上乗せするつもりであることに気づいた。日本側は抗議し、米国側が修正してくれるものと信じた。だが、これまで日本側の望むような措置は講じられていない。
林芳正官房長官は8月22日の記者会見で「米側に対しては、可及的速やかに『相互関税』に関する大統領令を修正する措置を取るよう、また、自動車・自動車部品の関税を引き下げる大統領令を発出するよう強く申し入れ」ていくと述べた。
これを聞いて頭が混乱しないだろうか。日本の当局者たち自身、混乱しているはずだ。不運なことに、米国側はむしろ、トランプが求める5500億ドル(約82兆円)の「契約金」を日本に払わせることに注力している。赤沢の交渉相手のひとりであるハワード・ラトニック米商務長官は先週、FOXニュースの番組で、優先事項はこの投資ディールの最終妥結だと説明している。
このチグハグぶりがすべてを物語っている。日本政府がそこから読み取っている対処方針は、日本は支払いをゆっくり進めながら、トランプに関税措置を通じて貿易相手をゆする権限などないと米連邦最高裁が判断してくれるのを待つ、というものだろう。もっとも、その時点で5500億ドルの取り決めを反故にできるかと言えば、それはほぼ絶望的だ。
日本は、自国の前途がかなりの程度、トランプと中国の対決の行方にかかっていることを理解している。トランプの貿易戦争は、つまるところ中国を屈服させるのが目的だ。トランプは2017年から2021年までの大統領1期目に、習近平国家主席の中国共産党政権にうまくしてやられたのも面白くない。


