起業家

2025.09.04 08:00

狙いは2度目のユニコーン、「プロテイン入りスイーツ」で挑む連続起業家の野心

スーパーに並ぶレジェンダリー・フーズの商品(The Image Party / Shutterstock.com)

第2のユニコーンを目指す、レジェンダリー・フーズの挑戦

レジェンダリー・フーズの事業はしばらく脇に置かれていたが、転機は2019年に訪れた。 2019年にクエストが当時としては史上最大規模のプロテインバー企業の買収案件で売却された後に動き出した。この取引でペナは税引き後で約2億2000万ドル(約326億円)を手にした。クエストが当時最大規模のプロテインバー企業の買収案件で売却された後、動き出した。この取引でペナは税引き後約2億2000万ドル(約326億円)を得た。ただし、競業避止義務により、トルティーヤチップス、プロテインバー、飲料などクエストの領域は3年間扱えなかった。

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ペナは共同創業者として元同僚のマイケル・ヴェニを迎え入れた(少数株を保有)。さらにクエストの研究開発チームから複数名を引き抜いた。本格始動は2020年で、その年に米国で定番の「ポップタルト」に似た、トースターで温めて食べる菓子を発売した。

「レジェンダリー・フーズは、自分が再び成功できるか、しかもより効率的にできるかを試す実験室のような会社だった」とペナは語る。「私の目標は、2社連続でユニコーン企業を築くことだった」。

取引先の信用をゼロから再構築し売上を拡大

レジェンダリー・フーズは、最初の数製品の発売から4カ月で小売展開に踏み切った。だが当初はさまざまな困難が続いた。特に、ウォルマートでの再開は想定より難航。クエスト時代の原材料ベンダーは電話に出ず、馴染みの小売への営業も、ゼロからの出直しに等しかった。

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「起業家が、過去に何をしていたかなんて誰も気にしない」とペナは語る。「私たちが以前クエストにいたことが、少なくとも多少は助けになると思っていた。1割くらいはプラスになるだろうと思っていた。しかし、実際のところは、完全に一から築き直さなければならなかったんだ」。

その後、甘い菓子パンなど初期商品が小売店の棚に並び、2021年のは売上は約600万ドル(約8億8800万円)、2022年は1800万ドル(約27億円)へ拡大。フレーバーのバリエーションを広げ、ドーナツなど新商品を展開する中で、同社が最も重視したのが、小売パートナーの開拓だった。その結果、2023年は売上高約6000万ドル(約89億円)に伸び、2024年には1億2000万ドル(約178億円)を突破した。同年、レジェンダリー・フーズは黒字化も達成した。

常識を覆す製品開発と高価格の理由

事業は順調に伸びていたが、自社製造拠点を持たないことが初期の障害となっていた。2025年5月、ペナはレジェンダリー・フーズ専用の工場をカリフォルニア州ベルに開設した。しかし、「ゴールデンステート」と呼ばれる同州で工場を維持することは、コストの高さから、多くの人々の反発を浴びた。

また、特にペナの目標はクエスト時代の実績を超えることであり、その挑戦が製品づくりを一層困難にした。レジェンダリー・フーズのドーナツは従来品より格段に日持ちすることを目指し、試作品の完成に2年半を要した。

中程度のタンパク質を含む商品を作るのは比較的容易なことで、多くの企業は栄養成分を高めるために「プロテインを振りかける」程度にとどめている。しかし、タンパク質が20グラムの180キロカロリーの菓子パンを作るのは、はるかに難しい。生地もフロスティングも砂糖や炭水化物を使わずにプロテインで作らなければならないからだ。「それは、まるで自分を身動きできないようにして、『ここからどうやって抜け出すんだ?』と言っているようなものだった」とペナは振り返る。

ポップタルトの3倍以上の価格でも売れる秘密

結果として、製品は一般的なスイーツ比で最大5倍に達する高価格帯になった。レジェンダリー・フーズの4個入りトースター菓子は約12ドル(約1800円)。本家の8個入りポップタルトは4ドル(約590円)未満だ。

「うちの原価は大半の企業よりはるかに高かった」とペナは語る。「だからこそ最終的にクエストは買収されたんだ。真の価値は研究開発にあった。レジェンダリー・フーズはそれをさらに次の段階に引き上げただけだ」。

マーケティング費用ゼロで売上約266億円へ

レジェンダリー・フーズの売上は好調だが、製品が万人に受け入れられているわけではない。例えばターゲットやウォルマートのサイトでは、レビューの評価は低めだ。一方、健康食品店GNCのサイトでは、ほぼ絶賛のレビューが並んでいる。健康志向の消費者は、必要な栄養目標を達成するために、あるいは罪悪感を避けるために、多少高いお金を払うことをいとわないのだ。ミンテルのアナリストのミルズは、「高タンパクのクッキーやチップスは、プロテインなどの付加価値があれば、『許容可能の贅沢品のおやつ』として受け止められるかもしれない」と語る。

レジェンダリー・フーズの年間売上高は今年、1億8000万ドル(約266億円)を超える見通しで、全米で10万カ所以上のジムや小売店に商品を並べている。ペナによれば、同社はマーケティングに一切費用をかけていない。たまのインスタグラムの投稿以外は、スポンサー付きSNS投稿も広告キャンペーンも実施していないという。その代わり、製品を心から愛する「伝道者」がいる。昨年、ある大企業からレジェンダリー・フーズに10億ドル(約1480億円)の買収提案があったが、彼は売却の意思はないそうだ。

ニューヨーク市内のセブン-イレブンで

カリフォルニアから約4800キロ離れたニューヨーク市内のセブン-イレブンでは、レジェンダリー・フーズのシナモンロールが、クエストのプロテインバーと並んで陳列されている。ジム帰りの女性客がその棚を見つめ、見慣れたクエストのおやつか、それとも同じ栄養成分をうたう大ぶりのシナモンロールを選ぶかをしばらく考えた。彼女は、レジェンダリー・フーズの製品を手に取り、パッケージに書かれた内容をざっと確認すると、レジに向かい、カードの決済が終わるのを待たずに、もう袋を開けていた。

forbes.com 原文

編集=上田裕資

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