起業家

2025.09.04 08:00

狙いは2度目のユニコーン、「プロテイン入りスイーツ」で挑む連続起業家の野心

スーパーに並ぶレジェンダリー・フーズの商品(The Image Party / Shutterstock.com)

キッチンから始まったユニコーン企業、クエストの軌跡

2010年創業のクエストはプロテインバー市場の有力企業で、2019年の売却時の売上高はほぼ4億ドル(約592億円)。その急成長は、プロテインチップス、ピザ、シェイクなどスナックへ商品ラインを拡張した時期に加速した。クッキー、キャンディー、マフィンも展開した。一方、レジェンダリー・フーズはドーナツやシナモンロールで甘党向けの「代替おやつ」を明確に打ち出す。

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「クエストのときと比べても、ここまでの需要の高さは見たことはない」と、ペナはレジェンダリー・フーズに対する消費者の反応を語る。

高校時代の「仕事から逃げたい」という動機が起業の原点

ペナはメリーランド州ボルチモアで、ブラジル出身の医師の両親のもとに生まれ育った。10代のころは、働くことへの期待よりも気が重くなる思いを抱いていたという。高校では、将来の仕事に前向きになる目的で、大人へのインタビュー課題が企画された。現実の仕事について話を聞くためだ。

「クラスメートの多くは、教室に戻ってきて興奮気味に語っていたけれど、私は『なんとかして別の道を探さなきゃ』と思ったのを覚えている」と彼は語る。

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ペナは、一生それを避けられる最善の方法は、金持ちになることだと決意した。18歳で不動産業に挑戦するも失敗し、ネブラスカ州オマハのクレイトン大学に進学。友人たちといくつも事業を興したが、多くは失敗した。卒業後はルームメイトのマイク・オズボーンとウェブデザイン会社を設立し、まずまずの成果を上げた。

妻の手作りプロテインバーが事業の始まり

2005年、ペナは出会い系サイトで妻のシャノンと知り合い、健康的な食事と運動への共通の関心をきっかけに意気投合した。数年後、当時フィットネストレーナーだったシャノンは、夫妻の自宅のキッチンで自作のプロテインバーを作り始めた。「私たちはいつも栄養についての話をしていた。当時は市販のプロテインバーをほとんど食べていなくて、『なぜ誰も、こんな風に作ったプロテインバーを出さないんだろう?』と話していたんだ」と彼は語る。

無料サンプル配布から年商370億円企業に成長

シャノンは自宅で、クエストの最初の13フレーバーを開発した。最初は「バニラ・アーモンド・クランチ」だった。その後、ペナとオズボーンは元マーケティング幹部のトム・ビリューを迎え、初年度は手作業でバーを製造。複数のジムや希望者に大量のサンプルを配布した。「このサンプルが会社を成長させた」とペナは言う。

クエストは初年度に300万ドル(約4億4400万円)の収益を計上した。「製品が自然に顧客を呼び寄せてくれた」と語る彼は、当時のクエストバーを「磁石のようだった」と例えた。

2012年、需要に応えるため約50万ドル(約7400万円)の製造機械を導入し、店舗販売を開始。年末の売上は2100万ドル(約31億円)に達した。さらに2013年にはプロテインパウダーを発売し、ウォルマートやターゲットへ急展開。2014年の売上は2億5000万ドル(約370億円)となった。

急成長の裏にあった葛藤と次なる一手

2015年、サンフランシスコ拠点の投資会社VMGパートナーズがクエストに初出資。生産力強化の資金となった。取引は企業価値9億ドル(約1332億円)を前提に、VMGが13%を取得。創業者にはそれぞれ約30%の持ち分が残った。

その年クエストの売上高はほぼ倍増し、4億2000万ドル(約622億円)に達した。しかし翌年、クエストがトルティーヤチップスや冷凍ピザの開発に乗り出すと、投資家のVMGは懐疑的になった。ペナも会社の進む方向に不満を募らせた。彼にとってブランドの強みは研究開発だったが、クエストは年間数千万ドル(数十億円)をマーケティングや動画制作に投じるようになり、それは不要だと感じていた。

売却を見据え、競業避止義務成立の前に新事業を設立

「規模が大きくなるにつれて、本来の強みから外れてしまった気がした」と彼は語る。「自分たちで自らの注意をそらしていると思ったんだ」。

買収が視野に入る中、ペナは次の事業の構想を練り始め、2017年にフレーバーナッツを扱う会社としてレジェンダリー・フーズを創業した。競業避止義務が成立する前に、あえてプロテイン製品から距離を置く狙いがあった。

「みんな正気の沙汰じゃないと言った」と彼は振り返る。「『ちょっと待て、クエストをまだ売っていないじゃないか。すべて順調なのに、いったい何を考えているんだ?』と周囲に言われた。自分としては、手応えを探るためのすごくいい方法だと思ったんだ」。

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編集=上田裕資

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