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2025.09.03 11:30

AIに巨額を投じ導入した企業が「失敗」した、たった1つの理由

sekulicn / Getty Images

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企業の役員会議では、エンタープライズAI(企業向けAI)が技術革新予算の最大の項目となっている。しかし同時に、それは最大の悩みの種ともなっている。各社は大規模モデルや生成AIアシスタント、予測システムを記録的な速さで導入しているものの、多くのケースで成果が伴っていない。華々しいアピールや試験導入の裏で、業界全体に「何かがおかしい」という空気が広がりつつある。AIは新たな価値を解き放つはずだったが、多くの企業にとっては、かえって混乱を増幅させているに過ぎない。

認知科学者のゲイリー・マーカスやハイテクコラムニストのエド・ジトロンといったAI批判派は、OpenAIやAnthropicのようなAI企業の真の競争優位性がどこにあるのか問い続けている。ジトロンは今年2月、生成AIを「金融、環境、社会における時限爆弾」と表現し、広く知られるようになった。またマーカスによれば、真に優れたAIシステムを構築することは可能だが、現在の主流なモデルやアプローチでは実現できないという。同氏は、現在のLLM(大規模言語モデル)は不誠実で予測不能であり、潜在的な危険性をはらんでいると主張する

Data AxleのCEOであるアンドリュー・フローリーは、最大の問題は最初のコードが書かれる以前に始まっていると考えている。「エンタープライズAIにおける成果の乖離は驚くには当たりません。これは、野心が準備を上回ったときに起こることです」と彼は語る。「多くの企業は、AIを『能力』ではなく『製品』であるかのように投資し、スイッチを入れさえすればすぐに価値が生まれると期待してきました。しかし、AIは単独で機能するものではありません。AIは高性能エンジンであり、あまりにも多くの企業がそれを汚れた燃料で走らせようとしているのです」。

データ基盤の構築という、極めて重要な基礎作業

この問題の大きな理由を尋ねると、フローリーは言葉を濁すことなく答えた。「本当の問題はテクノロジーそのものではなく、その土台にあります」と彼はいう。「企業はAIモデルのことばかりに気を取られ、そのモデルが依存する唯一のもの、つまりデータを軽視したり、育成を怠ったりしています」。断片化した記録やサイロ化されたシステムは、ほとんどの企業で常態化している。AIはそうした亀裂を、より速く、より大規模に露呈させるだけなのだ。

「一部の企業は、AIの可能性に目がくらみ、データ基盤の構築という極めて重要な基礎作業を飛ばして、即時導入を急いでいます」と彼は説明する。「データの所有権の確立、ワークフローへのガバナンスの組み込み、品質基準の徹底といった最も重要なステップが、スピードを優先するあまり後回しにされがちなのです」。

しかしフローリーによれば、それは必ず信頼を損なう失敗につながるという。「ある企業が、重大なサービスの苦情を申し立てたばかりの顧客に『お得意様向け』の販促を送る場面を想像してください」と彼は説明する。「最近のネガティブなやり取りという重要な情報が欠落しているAIは、自信満々に、しかし的外れな過ちを犯してしまうのです」。

「明確な戦略も、定義された目標もない」

彼の見解は世界中で聞かれるものだ。ドイツのコンサルティング会社Advan TeamのCEO、ウド・フォースターも、自身が助言する企業の間で同様の機能不全を目の当たりにしている。「明確な戦略も、定義された目標もないことがあまりに多いのです。あるのは曖昧なロードマップだけで、進捗を追跡する仕組みもありません」と彼はいう。

「そしてもう1つの大きな問題は、AIが『プラグ&プレイ』で使える魔法のツールではないことです。企業は自社のデータが『十分に良い』と思い込み、データの棚卸しやクレンジングを省略してしまいます。既存のプロセスを適応させるのではなく、ただAIを後付けしようとするのです。これでは、信頼性の低い結果、増大する不信感、そしてプロジェクトの失敗を招くだけです。基礎を無視することは、砂上の楼閣を築くようなものです」。

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翻訳=酒匂寛

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