台湾メリダ・インダストリーズの会長、マイケル・ツェンは、起業家として名を馳せた父のアイク・ツェンから多くを学んできた。家族経営の自転車メーカーである同社は、創業以来の53年間でコストや技術、消費者の嗜好が劇的に変化する中、世界有数のブランドへと成長した。台湾証券取引所に上場する同社の株価は、パンデミック期のアウトドア需要とフィットネスブームに後押しされ、2021年に過去最高値を記録。その時価総額は30億ドル(約4410億円。1ドル=147円換算)を突破した。
新型コロナ後の過剰生産と業績悪化
しかしその成長の後に待っていたのは、新型コロナ後の影響による生産過剰と在庫過多だった。「当社は、ほかにもさまざまな課題に直面してきたが、私の父ですらこのことは何も教えてくれなかった」とツェンは語る。台湾中部・員林市にある本社で行われたインタビューで彼は、漢字表記の社名「美利達(メリダ)」の頭文字にあたる「美」の文字が大きく書かれた掛け軸を背にして語った。
メリダは昨年、売上高と営業利益は増加したが、営業外損失が響き、通年で7億6600万台湾ドル(約37億円。1台湾ドル=4.8円換算)の赤字に転落した。同社はまた、8月に発表された台湾からの輸出品に対する20%の米国の新たな関税や、台湾ドル高による不利な状況にも直面している。メリダの株価は、ここ1年で半値以下に下落し、より規模が大きな地元の競合ジャイアント、台湾のKMC、日本のシマノといった部品サプライヤーとほぼ同じ動きを示している。
Eバイク需要と投資家の見通し
しかしツェンは、在庫調整がすでに一巡した中で、今後の需要が堅調に推移すると見込んでおり、特に世界的に成長が続くスポーツタイプの電動アシスト付き自転車の「Eバイク」市場に期待を寄せる。メリダは長期的な製品設計やパートナーシップを維持し、これが国際情勢の不確実性を乗り切る支えになると考えている。同社の今年上半期の純利益は9億200万台湾ドル(約43億円)に達したが、前年同期の純利益の11億台湾ドル(約53億円)からは減少した。同期間の売上高も151億台湾ドル(約725億円)から146億台湾ドル(約701億円)にへと減少した。
台湾の証券会社CLSTは8月のレポートで、自転車業界は回復が見込めると指摘した。台北を拠点とする投資アナリストのリン・シューユーは「在庫調整は終わりに近づいている」と述べた。さらに、メリダの株価が直近の108台湾ドル(約518円)から、今後1年で150台湾ドル(約720円)に上昇する可能性があると予測。林によると、米国と欧州の販売業者の在庫は2025年後半には健全な水準に戻り、買い替え需要も加わって、売上高は今年の287億台湾ドル(約1378億円)から2026年には314億台湾ドル(約1507億円)に拡大する見通しという。



